今月のお客さま
犬田 ゆり さん
フランスを代表する食べ物であるチーズ。街中のチーズ屋さんに行くと、数えきれない種類のチーズが並んでいます。パリ市内17区の老舗チーズ屋「マルティーヌ・デュボワ」で働く犬田ゆりさんに、日仏のチーズ屋で働いて感じた違いを聞いてみました。
(取材・文 加藤亨延)
一度に300g以上買うフランス人
なぜチーズに惹かれましたか?
留学時代、サヴォワ地方で食べたチーズの味が忘れられず、日本でチーズの輸入会社に就職しました。元々フランスと食に関する仕事がしたかったのですが、チーズはワインなどと違って年齢制限がなく、誰でも毎日食べられることに惹かれました。その後、パリで働きたいと思い、日本の会社の紹介で現在のマルティーヌ・デュボワに来ました。
日仏でお客さんの違いは?
一度に買う量が全然違います。日本は個人だと100g、レストランだと300gほどですが、フランスは個人でも一度に300g以上買います。
チーズの注文はグラムでしますか?
日本だとグラムで量を指定されるお客さまがほとんどですが、フランスではグラム指定する人はあまりおらず、「これくらい」と切り分ける厚さをざっくり伝えるお客さまが多いです。販売員の私は指定された重さちょうどにチーズを切らなくて良いので楽ですね(笑)。
普段からチーズを食べるフランスらしいですね。
はい。それは売り方にも表れていて、日本は贈答品としてご購入される方も多いため、包装を工夫しているお店が多いです。普段使いが多いフランスは、綺麗にラッピングして売るというのはあまり見ないです。
国や地域で異なるチーズの好み
日仏のチーズの好みは?
私が日本で働いていた当時は、日本の場合、熟成がまだまだの若いチーズを求めるお客さまが多いです。チーズが高く、少しずつ日にちをかけて食べる方が多いためです。日本のレストランなども長く持たせたいため、若いチーズを求める傾向にありますね。フランスだと、パリか地方か、で変わります。特にパリは、熟成が進んで奥までクリーミーになったチーズを好む人が多いです。しかしチーズの産地など、地方に行って周囲を観察していると、熟成具合にはそこまでこだわらず、芯が残りまだ熟成しきっていないものを食べている場合もあります。
日仏の接客の内容は?
日本は、チーズに慣れ親しんでいる人ばかりではないため、各チーズの説明や、ワインとの細かいペアリングを教えてほしいと言われることが多いです。フランスは、幼い頃からいろいろなチーズを食べて自分の好みを知っている人が多く、販売員に相談することなくいつも決まった種類を買っていかれます。こちらから提案する機会が少ないため、お客様から相談された時は嬉しいです。
犬田さんが特に力を入れていることは?
今働いているお店で学んだ大きなことの一つに「プラトー(数種類のチーズを組み合わせたデコレーション)」があります。当店と同じような質でプラトーを出している店はパリでは少なく、それを引き続きやっていきたいです。
11月からはどんなチーズが旬ですか?
冬の定番人気はやはりモンドールですね。また週末はラクレットがすごく売れます。パリっぽいものだと、12月から3月くらいのトリュフの季節は、毎週入荷するフランス産フレッシュ黒トリュフを使った、当店オリジナルのトリュフチーズたちがクリスマスの華になりますよ。
Fromagerie Martine Dubois
80 rue de Tocqueville 75017 Paris