だいたい手相を見るだけで将来のことがわかると言い張る人はその手相を見せる相手が精神的にどこかで弱っていること以外に、何も分っちゃいない。当たり前だ。しかし当たり前だとはいえ、手相どころか星座の位置や鳥の飛び方などを見てから平気な顔で未来のことをべらべら喋る人こそは、どの時代にでも星の数ほどいる。遊び半分で超能力者ぶれば全く問題はないが、人騙しを職業にしたらそれは完全に詐欺行為であって決して許されていいことではあるまい。小学生でもわかるはずだ。

ただし中世時代は当然、事情が違っていた。地球が回転していて太陽の周りをまわっているのではないかと問いかけていただけで処刑されそうになったガリレオの例が示すように当時は科学より迷信が圧倒的に主流で、実は誰もが預言者の言うことに耳を傾けていた。その中で予言で最も印象や名を残せたのはおそらく南仏生まれ育ちのノストラダムスである。彼は医師として活躍したが、人を病気から救ったことにより未来を見破れたことで有名になった。「この事件はノストラダムスが予言していたんですよ」と今だに耳にすることもレアではない。それにはちゃんと理由がある。

現代フラ語からだいぶかけ離れた当時のフランス語とプロヴァンス語やラテン語で彼が書き遺した詩集は非常に難解。その内容が曖昧過ぎて逆に多種多様な解釈で捉えられる。だからこそ、なんでもかんでもノストラダムスが言っていたように読めなくもない。でももしフランス革命や世界大戦にSMAPの解散まで本当に予言していたらノストラダムスは確かにおっかないおじさんだったが、あれは単純に後知恵バイアスという、物事が起きてからそれが予測可能だったと考える傾向に過ぎない。先月他界した五島勉の『ノストラダムスの大予言』は1973年に大ヒットしたが、きっと読み返したら、週刊誌ほど肴にできるおもしろい話はでてこないし、今週の試合の結果もわかるはずがない。当然だけど、ドマージュ!(残念だ)。

『ノストラダムスの大予言』

作者 :五島勉


Rémi BUQUET

フリーランス翻訳家

buquetremi@negoto.fr