都市伝説は大体バカげているとはいえ、鳥肌を立たせながらもなぜか人を魅了する。種類も星の数ほどあるし、どこに行ったって必ず出会える。たとえ都市からだいぶ離れた、吉幾三が必死に出たがるような村に住んでいる人も絶対にこういう話を耳にする。
無論、昔から日本で伝わってくる「口裂け女」や「トイレの花子さん」みたいな妖怪はアイスランドや南米の子どもたちの間で話題になっているわけではない。世界各国にそれぞれのお化けの話があるからだ。ジャパニーズ・ホラーの名作である「リング」はハリウッドにリメイクされたおかげで貞子の話をヒマラヤの天辺やサハラ砂漠でされても不思議ではないが。
『記憶屋』に登場する妖怪は人の記憶を奪うと言われるけれども、それはあえて「トラウマを抱えているせいで苦しむ」人に限る上、当人が同意する訳なのでテレビから突然に出てくる殺意に満ちた幽霊と根本的に違うのだ。
フランスでは「ダム・ブランシュ」(白衣の貴婦人)はどちらかというと貞子に近いかもしれない。ファッションだけではなく、森の中、或いは車の通らぬ夜の道がお気に入りのスポットのようだから。何より襲ってきたらそれは決してポケモンカードを交換するためではない。
サンタもある意味、都市伝説として読まれなくもないが、「クロック・ミテーヌ」というキャラは昔フランスの腕白な悪童に恐れられていた。クロックムシューとクロックマダームは現在営業再開したばかりのビストロの定番メニューだが、クロック・ミテーヌは「指先をかじるジジィ」と言われる怪獣で、サンタが大人しい子どもにプレゼントをあげるように、悪さをしたガキに罰を与えると語られていた。現在、『進撃の巨人』など観て育つ子どもはその程度の脅しでビビるとは思えないが。
『記憶屋』
著者 : 織守きょうや
出版社 : 角川ホラー文庫
Rémi BUQUET
フリーランス翻訳家