東京オリンピック。本来、それを機に忙殺されるほど通訳や翻訳の仕事ができたらいいなとは数年前から密かに思ってはいたが、結局世界中を狂わせたコロナのせいで日本に行くことさえ許されずその待ち望んでいた開会式を片耳の遠くなった犬と共にノルマンディの実家で見ました。
「次はないだろうな」と嘆きながら。まぁ正確に言えば次の開会都市はパリなのでチャンスはまだあるか。ホームだと興奮度が変わってくる。エキサイティングな要素が少ないのだ。
僕という人間は基本的に飽きっぽい生き物で自分の居場所にすっかり慣れたらどうしてもその良さを忘れかけてしまう。隣の芝生の方に転がれば気持ちよく寝れるだろうなと何故か妄想してしまうのだ。
馬鹿馬鹿しいのはわかります。犬の散歩担当だから、いくらなんでも隣の芝生の方がおしっこくせぇことぐらいは知ってるんで。そういうマンネリを防いだり或いは住んでる場所の良さを思い出したりするためには他所者の意見を聞けば一番間違いない。
そういう意味で戦後フランスで『見るもの食うもの愛するもの―へそまがりのフランス探訪』という本がバカ売れしたのは、イギリス人の視点で当国が面白くて新鮮な風に描写されたからだろう。文化の面白さはやはり別の文化と比較してからわかるものだ。しかしこの本の最も面白いところはイギリス人視点で書かれてるのに作者はブリティッシュユーモアを巧みに交えながら英国人になりすますフランス人であることだと思う。
翻訳本だとどうしても訳しきれぬギャグがあるからやはり自分の言葉の書き物の方にパワーがあったりします。本は元の言語で読んだ方が絶対に面白い。まぁそれを主張する翻訳家の俺は結局仕事のチャンスを逃し老犬と共にテレビばっかり見てる訳です。
題名『見るもの食うもの愛するもの―へそまがりのフランス探訪』
作者 : ピエール・ダニノス (訳:堀口大學)
発行:新潮社
1958年初版
Rémi BUQUET
フリーランス翻訳家