【今月のお客さま】
細川聖香さん
有名シャンパーニュメゾンであるルイナールが毎年開く「ルイナール・ソムリエ・チャレンジ」で、2021年に優勝した細川聖香さんはミシュラン1つ星「ジュール・ヴェルヌ」のソムリエです。フランス文化ど真ん中の男社会の中で、外国人そして女性として働くことについて聞きました。
(文 守隨亨延)
出産と重なったためテイスティングの準備ができず
この度は優勝おめでとうございます。コンクールは定期的に出ているんですか?
ありがとうございます。ルイナールのコンクールは2度目で、前回の2019年は、残念ながら結果がついてこなかったので、その時の経験が今年に活きました。実は今回、出産後でテイスティングの準備をすることができなかったんです(笑)。そこが大変でした。
通常の接客と比べた時にコンクールは特殊ですか?
はい。今回のコンクールは、テイスティングした時のコメントで判断されます。その際の点を稼ぐ話し方と、お客さまとの会話はやはり異なります。例えば醸造方法。コンクールでは「バニラの香りがするので樽発酵を何ヶ月間かけた」など説明する必要がありますが、接客時はそこまで詳しく言いません。
ソムリエだと高いレベルで語学も求められますよね。
サービスとして働く場合、言葉ができないとオーダーも取れないですし、電話も取れません。フランスに来た当初は、店の営業が終わってから、耳で聞いた分からない単語をカタカナで書いて同僚の日本人に聞いていました。渡仏前に語学学校には通いましたが、仕事の合間での通学のため、ほんのさわり程度で。フランスでは、ワインのことを知る前にまず生活に対するフランス語が分からず、その後にようやくワインに対して取り組めました。
アジア人の見た目で意外な顔をされることはある
細川さんは日本では名古屋マリオットアソシアでソムリエとして働いていました。日本との違いは?
日本時代のレストランでは完璧を求められていましたが、フランスではちょっとだけ飲みながら仕事をしている同僚がいますし、グラスにカルキの汚れがついていても、それほど問題視しません。その考え方を受け入れるのが当初は難しかったです。
外国人としてはどうですか?
どうしても見た目がアジア人なので、オーダーを取りに行って「ソムリエです」と言った際に、お客さまから意外な顔をされることはあります。高級レストランに行けば行くほど、どうしてもそれは存在します。
従業員間ではどうですか?
お店のチームに関しては全くありません。お互いを尊重してくれます。
フランスにおける接客に対する印象は?
フランスの方が、お客さんとサービスが対等と感じます。また、世間話のように「この前どこどこのワイナリーをビジットした」と教えてくれる人がいますし、「私はシャンパーニュがすごく好きで」という話をすると、もし同じ出身地だったら地元の話をしてくれるし、そういうやり取りが楽しいです。フランスで働く特権ですかね。
仕事で常に心がけていることは?
サービスマンであることを忘れてはいけないと思っています。要はお客さんの満足が一番なので、有名な高いワインはもちろん素晴らしいですし売上にも繋がりますが、小規模なワイナリーとか、それらとの料理のペアリングとか、ワインの楽しみを伝えられお客さんが満足してくれるのが一番かなと思っています。
今後の目標は?
娘がいるので、料理人である夫とうまくバランスを取りながら、仕事をしたいと思っています。結婚しても子供ができても両立できると思いますし、キャリアを捨てる必要はないと思っています。ずっと現場に立ってはいたのですが、合間を見て、教育の現場にも関われたらと思っています。学校でクラスを持つとか自分のアトリエを構えるとか、学んだことをアウトプットできていければいいなと思います。
【Le Jules Verne】
https://www.restaurants-toureiffel.com/en/jules-verne-restaurant.html