京都東山に2020年にオープンしたお茶専門店「曼荼羅茶」。石油タンカーのエンジニアから日本の飲料メーカーを経て、「曼荼羅茶」オーナーに転身したニコラウ・アレクサンダーさんがお茶の世界にハマった理由とは? 昔ながらのお茶にこだわりつつ、新しいスタイルも確立するアレクサンダーさんご自身について伺いました。

「やってみなはれ」の精神で

最近のおすすめは?

 暑い今の時期に一番人気なのは「泡茶」。これは私が開発したお茶サーバーからシャンパングラスに淹れて、圧力を利用して泡がたくさん出てくる水差し茶です。ちょっとお酒みたいでおしゃれでしょう? この泡茶に月餅やケーキなどのビーガンスイーツのペアリングもしています。一番人気は抹茶クレームブリュレです。私もビーガンですが、その前は25キロ以上太っていました。今はお酒も飲まず、お坊様の生活みたいね(笑)。

そもそもなぜ日本のお茶を飲むようになったんですか?

 初めてお茶を飲んだのは、エンジニアの仕事で日本に来た時でした。変な感じがしたんです。嫌いじゃないけど、好きではなかった。「何だろう?これ」みたいな。だからもっと知りたくなって、自分でいろいろ勉強しました。

なぜ京都にお店を?

 以前から私は「エナジー」を感じることにすごく興味があったんです。初めて京都に来た時には「ZEN」の力を感じたし、今も京都には「ZEN」が生きていると思います。私の出身地の南仏のグルノーブルは自然が近くてすばらしい場所だけど、何かを作ろうと思った時には京都のほうが可能性やエナジーを感じられた。だから京都に来たのは運命かな。お店を開くなんてクレイジーだなと思ったけど、たくさん準備して考えて、「やってみなはれ」(前職サントリーの精神)に後押しされた感じだね。

お客さんの反応は?

 京都の人はあんまり来ないんだけど、海外からの観光客や、日本各地からお客さんが来てくれますね。コロナ禍ではお客さんが来なくて大変だったんだけど、アメリカとヨーロッパにお茶を送って、オンラインで現地と繋いで、お茶の飲み方を説明する体験もしました。

1500年のお茶文化を伝える

アレクサンダーさんが一番好きなお茶は?

 やっぱり緑茶が好き。玉露とかね。和紅茶もおいしい。お茶には1500年の歴史があるんです。飲むだけじゃなく、文化や技術、芸術のことも含めるとすごく深い世界。でも、今の日本ではお茶の文化がなくなってしまいそうでがっかりしました。

ほとんどの日本人はお茶について詳しくないということですが。

 フランスにはワイン文化があって、フランス人はお店に任せず、産地や種類、おいしさを知っている人が多いけど、日本人は「甘み」とか「渋み」とか、お茶の技術的なことは気にしても、お茶の種類や産地を気にしない人が多いと思うんです。どうしてなんだろう? 日本のお茶農家さんもお茶屋さんもすごく少なくなってしまった。曼荼羅茶では、農家さんに直接会って、いい関係を作っているから全国のおいしいお茶が飲めますよ。

お店ではどんな楽しみ方がありますか?

 お茶を飲んでゆっくりして、ZENを感じられる枯山水もあります。テイスティング体験や、ワークショップ、琵琶や三味線など伝統的な音楽とお茶を組み合わせた会も開いています。フランス人落語家の会もありますよ。

アレクサンダーさんのこれからを教えてください

 お茶をもっとオープンにして、広めていくことができたらと思います。東京や神戸など のお店に「泡茶バー」をタイアップして出すことも夢です。健康によくて美味しい日本のお茶はまだ世界でチャンスがあるし、新しい飲み方があると思っています。


曼荼羅茶

京都府京都市東山区山城町278-1

https://ja.mandaracha.com/

ZEN(禅)…元々は宗教の禅宗のこと、坐禅修行のことを言う。フランスでは「リラックスした」「穏やかな」などの意味で使われることが多いようですが、使う人によってニュアンスの違う曖昧な言葉のように思います(編集部)。