この季節になるとフランスのあらゆる庭園に咲き誇る薔薇――この光景は一人の画家とある女性の出会い無くしてはあり得なかったかもしれません。その画家とは、薔バラ薇の画家ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ。植物をこよなく愛し、殊の外、薔薇には特別な思いを抱いていました。


 1759年ベルギーで生まれ、幼い頃から画家であった父の手ほどきを受け、絵の技術を身につけました。13才ですでに職人として働きベルギー各地へ修行に出かけます。23歳の時、装飾画家と
して身を立てていた兄を頼りパリへ。仕事をしながら、植物に興味のあった彼は、暇を見つけては、王立植物園へ通いました。そこでまず、同じく植物を愛するレリティエというアマチュアの植物学者と出会います。この出会いはその後の彼の運命を決定づけます。レリティエの著作に植物画の挿絵を描き、その正確さは評判を呼び、噂はナポレオン1世皇后ジョセフィーヌにまで届きま
す。そしてパリ郊外にある彼女の居住、マルメゾンの庭園へ出入りする許可を得たのです。ジョセフィーヌも無類の植物好き、特に薔薇は特別で、世界中から珍しい種類を集めていました。蒐
集のみならず、ルドゥーテのような植物画家に描写させ、専門家と品種改良までするという彼女の熱意は、ヨーロッパをバラの栽培地に押し上げたのです。ルドゥーテはジョセフィーヌにこの庭園の薔薇図譜の制作を提案しましたが、彼女はその完成を見ることなくこの世を去ります。しかしルドゥーテはそれを完成させ、今でも比類なき植物図鑑として存在しています。
 薔薇の情熱的な収集家ジョセフィーヌと植物画家ルドゥーテ、この二人の出会いは、薔薇の発展に大きく寄与し我々を楽しませてくれているのです。


妹尾優子

仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「Lecture de l’aprèsmidi
」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史
ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
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