Je ne peux pas peindre les anges, car je n’en ai jamais vu.
天使? 見たことのないものは描けないよ!

私は天使を描けない。なぜなら見たことがないからだ。天使を書いてくれと頼まれたときのクールベの答えです。
 ギュスターヴ・クールベ。写実主義の提唱者。古典的で荘厳な新古典主義や、劇的で情熱的なロマン派の理想主義に対抗し、日常の現実を描くことを望んだ彼らしい言葉です。
 コンテチーズで有名なコンテ地域に生まれ、幼い頃から勉強の傍らデッサンも学びました。ソルボンヌ大学法学部に入るものの、画家を目指し、遠い過去や異国の物語ではなく、今目の前にある現実を徹底して描きました。
 1855年の万博と同時に行われたサロンに出品を希望しますがその独特の画風から拒否され、それに対抗し万博会場の近くに自分の作品のみ展示するための建物を造ります。これは世界初の個展とも言われています。
 ここで彼は、レアリスム(Le Réalisme 写実主義)を宣言します。先入観を越え、古代の芸術も現代の芸術も研究した上で、他者を模倣することは望まず、「アートのためのアート」は追求せず、
現代の習慣や考え方を表現し、一人の人間として生きたアートを創造することを目指していると語りました。
 今回の絵。こんにちはと言って、相手を敬うように手を差し伸べる中央の人物は彼のパトロン、ブリュイヤス。手前の人物はクールベ。庇護者と対等、もしくは少し偉そうに描かれています。これは、これからの時代、貴族もブルジョワジーも一般市民も同等だという彼の意思の表れかもしれません。現実社会をありのままに描くというその精神は、新しい絵画表現技法で、マネやモネたちなど印象派によって継承されていきます。


妹尾優子

仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「Lecture de l’aprèsmidi」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
【HP】https://note.com/tabichajikan/m/md750819c9bc7