床削り
ギュスターヴ・カイユボット / オルセー美術館
上半身裸の男たちが、床を鉋で削っている。絵の右側にはワインの瓶。都市労働者たちの淡々とした日常が語りかけてきます。これが絵になるんだ!それは中学生の頃、美術の教科書に資料として掲載されていたこの作品の第一印象でした。その後も何故か惹かれるものがあり頭の片隅に残っていて、十数年後にオルセー美術館で再会するのです。
ギュスターヴ・カイユボット。モネ、ルノワールらと並び印象派を代表する画家。1848年パリの上流階級に生まれ、法律を学び、のちに画家を志しました。印象派といえば郊外、屋外に対象を求めるイメージですが、彼はパリで独自の印象派を追求して行きました。
当時、オスマン改造で整備され大都市になったパリ。そこに生きる人々の暮らしや当時のアパルトマンの室内装飾など、写真には残らない日常のパリの姿を残しました。特に社会的メッセージはなく、ただ的確にその姿を捉えた彼の作品は、当時の状況を知る資料としても興味深いのです。
また経済的に恵まれた背景を活かし、仲間の作品を購入することにより経済的に彼らを支えました。仲間の意見調整などもおこない、亡くなる時も友人たちを想い、収集した67点の印象派の作品を国に遺贈するようルノワールに託しました。3年にわたる議論の末、38点が受け入れられ、当時、生存する芸術家の作品を収蔵するリュクサンブール美術館に収められました。その中にはルノアールや、モネ、ドガらの今では誰もが知る作品も含まれていました。彼がいなければ現代の私たちは印象派の作品に出会えてないかもしれませんね。
妹尾優子
仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「 Lecture de l'après-midi 」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
●https://note.com/tabichajikan/m/md750819c9bc7