しっかり抱き合い、溶け合うかのようにワルツを踊っている二人。腰から流れるようなドレープと斜めにとられた軸により、その動きはとても滑らかで美しい。女性の艶やかな質感の背中と、男性の筋肉の力強さは官能的な愛を表現しています。作者は、フランスの彫刻家、カミーユ・クローデル。ロダンの弟子であり、恋人でもあった女性です。

幼き頃から彫刻に親しんだカミーユは、彫刻家アルフレッド・ブーシェにその才能を見出され、ロダンに紹介されます。当時カミーユ19歳、ロダン43歳。弟子入りしたカミーユは、類稀な美貌と彫刻の才能をもって、なるべくしてロダンと子弟以上の関係になります。決定的なのは、ロダンがバルザックの記念碑制作のため、バルザックの出身地トゥールに定期的に通っていた1890年代。ロダンは何度か滞在していたイレット城に彼女を招きました。街の喧騒と人目から離れた二人は愛を深めていきます。滞在中二人はそれぞれ、「バルザックの像」「La Petite Châtelaine (小さな女城主)」などの代表となる作品も制作し、公私共に充実した時を過ごしていたのではないでしょうか。しかしその後ロダンは正妻の元に戻り、二人の関係は終焉を迎えます。

ちなみにカミーユはこの作品を、作曲家ドビュッシーに贈り、彼は生涯自分の手元に置いていたといいます。少なからず彼の作曲のイマジネーションにもなったのではないでしょうか。


妹尾優子

仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「 Lecture de l’après-midi 」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
https://note.com/tabichajikan/m/md750819c9bc7