伝えたいのは水のゆらめき

 水面に映える光、そのゆらめき。この頃モネは、如何にみずみずしく水面に反射する太陽を表現するかにこだわっていました。「ラ・グルヌイエール」、ブルジョワジーたちに人気で、ナポレオン三世も愛したという、パリ郊外のセーヌ河畔にある水浴場。そこに浮かぶ水上レストランの風景を描いた作品。
 1869年の夏。1874年にモネが、第一回目の印象派展で、「印象 日の出」を発表する少し前のこと。こだわったのは、筆触分割と言われる技法。通常色を作る時、パレット上で何色かの色を混ぜて作るのですが、この技法は色を混ぜず、一つ一つの色を隣り合わせに配置します。そうすることにより、鑑賞者は遠くから見るとまるで二つの異なる色が一つの色に見えます。網膜上で色が交わる錯覚を生かした技法です。混ぜ合わせるよりも立体的にみずみずしく見えるのです。印象派の代表的な技法となった筆触分割。モネはこの頃から、これから自身で牽引していく印象派としての土台を築きつつありました。
 そして実はこの時、モネの隣にいたのは親友のルノワール。彼らはキャンバスを並べ同じ風景を描きました。絵を見比べると、すでにそれぞれの個性を見てとれます。風景の中に人物を溶け込ませて描くモネ。一方人物に焦点を当て生き生きと描写するルノワール。しかし、共通して言えるのは、二人ともその瞬間と光を閉じ込めているということ。
 銀座並木通りに、このモネの作品にインスピレーションを受けた建築物があります。建築家青木淳さん設計のルイヴィトンビル。水のたゆたいにも似た壁面は青い空に溶けてしまいそうです。これから夏本番、この三次元の水面のファサードで視覚的に涼を楽しむのも良いですね。


妹尾優子

仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「Lecture de l’aprèsmidi」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
【HP】 https://note.com/tabichajikan/m/md750819c9bc7