フランス人はよく喋るし、文句ばかり言うと何故か日本人からよく文句を言われる。個人差があるだろと言いたくなるけれども話が早速終了しこの原稿をほぼ白紙のままで渡すことになるからやめとく。

 確かに地球がスマーフの村だとしたら大抵のフランス人は陽キャラなスマーフではなく何を言われても常にごねる奴の方に近いかもしれない。昔は『ノーと言えない日本人』という本が流行ったように『イエスと言えないフランス人』を書けば少々の銭を稼げるのではないかと思ったことはあるし。また英語喋れない民族だと思い込まれるだろうし、稼いだ分「俺は言えるよ」と天邪鬼のアホに絡まられそうだからやめたけど。

 一方「常識」を宗教にしてきた日本にいるとちゃんと読まないと周囲の目線が酷く変わってしまうのはどの常用漢字よりもその場の空気だという。下手に出る杭は容赦無く打たれるからだと説明されがちだが、両国に慣れてくると結局のところ違うのはデモの回数だけで個人の愚痴はそうそう変わらない。人間は所詮、皆同じで公衆トイレに便座がないと愚痴りたくなる訳(パリではあるある)。

 一体いつから「我慢」が「美徳」として見なされるようになったのか?情報が氾濫する時代なのになぜ声を上げることがダメなのか。大人しい国民は政権からすると都合の良い国民であると同じように、残業などを厭わぬ従業員は上の者からすると都合の良い駒に過ぎぬ。話し合いで済むようだったら理想だけど、空気ばかり気にしたら革命家はマリーアントワネットとブリオッシュ食べてただろうし、戦中はナチスに占領されたフランス人は全員熱心にドイツ語を学んでたはず。自分の置かれる状況を改善していくため、時には声、時には拳を上げないと舐められっぱなしになる。オンフレと言う、現在最も読まれるフランス哲学家が書いたこの本を読んだら、文句は鬼婆や捻くれたジジィの癖ではなく、向上心に繋がる非常に健全な行為がわかるはず。


『哲学者、怒りに炎上す。』


 ミシェル・オンフレ/著 
 嶋崎 正樹/訳(河出書房新社)


Rémi BUQUET

フリーランス翻訳家

buquetremi@negoto.fr