フランスでも一定の認知度がある鍼灸などの東洋医学。日本では身近ですがパリではどうなのか?パリ市内2区で鍼灸院を開く玉山さんに、日仏で感じた鍼灸の違いを聞きました。

仏のツボは数字とアルファベット

まず鍼灸師になったきっかけを教えてください。


 きっかけは父親が脳梗塞になったことです。小学校くらいから格闘技をしていたので、子供の頃から骨継ぎなどは知っていたのですが、鍼灸についてはそれほど知りませんでした。しかし父が脳梗塞になり倒れた時に、鍼灸治療も併せて行ったことがありました。結果的に父は大事に至らず快復したのですが、その時の体験と、高校卒業後の進路選びの際の父の勧めもあって、鍼灸師になるための専門学校に進みました。


パリにはなぜ?


 友人がパリに住んでいて、遊びに行ったことが契機です。パリは自分にとって初めての海外旅行でした。フランス語はもちろん英語も得意ではありませんでしたが、その時にフランスという国に惹かれました。


例えばどんなところに?


 フランス人は物事をはっきり言いますし、指圧や鍼灸など東洋医学に興味のある人もいます。漠然と海外に興味はありましたが、そういう雰囲気も合いました。フランスで鍼灸師として挑戦してみるのも良いかなと思ったんです。


街を歩いていると鍼灸院を見かけることもありますよね。


 はい。経穴(ツボ)の名前を知っている人もいますよ。ただ、日本では漢字ですが、フランスやアメリカなどは、アルファベットと数字の組み合わせで経穴を表示します。


日本の鍼灸の学校を卒業後はすぐパリに?


 いえ、卒業後は日本で2年間ほど働きました。お金を貯めて最低何年間かはフランスで生きていけるようにしたのと、実際現場で揉まれて技術を研磨する必要があると思ったためです。

仏は精神面のサポートを求められる

日仏で患者の要望は変わる?


 私の患者さんの場合は、日本だと五十肩、腰痛、リュウマチ、頚椎捻挫後遺症で来院される方が多かったです。一方でフランスに来てからは、東洋医学に対する神秘というか、身体のエネルギー調整、ストレス解消、イライラを落ち着かせてほしいとか、どちらかというと心療内科のようなことを求められることが多いです。美容とかスポーツに関連して鍼灸を求める患者さんもいます。


生活していて日本との違いを感じたことはありますか?


 よく言われることですが、フランスの方はどの職業でも週末や祝日をきちんと休むことが多いです。バカンスもしっかり取ります。日本では、特に鍼灸師は週末や祝日はむしろ働く日という認識でやっていました。


玉山さんは日曜も開いていますよね。


 そうなんです。当初は日本との真逆の勤務感覚に驚いたのですが、そういう日に鍼灸院が空いていると、お客さん側からしたら助かるかなと思って、当院は週末も営業することにしました。


施術時間はどれくらいが多いですか?


 90分の人が多いですね。初診だと2時間でしょうか。私はその都度の対処療法的な施術は好きではなくて、根本を治したいと思っています。問診も大切ですね。一見関係ないと思うことが、案外悩みの主要な原因になっていたりします。例えば、イライラが実はデスクワークでの目の酷使に原因であることもありますし、水分を取るのを忘れがちだったりとか、違和感を感じた箇所だけでなくトータルで問題を判断していく必要があります。


今後は?


 一般診療は引き続き頑張って続けていきたいと思っていますが、それにプラスして、ここ数年は日本代表になるような選手のスポーツ関連の施術を請け負うようになりました。来年はパリ五輪も開催されます。今までの経験を活かしつつ、今後はスポーツ鍼灸の分野におけるプロやアマの選手のサポートも、もっとしていきたいと思っています。

【住所 】 27 rue de la Lune 75002 Paris
【Tel 】 0617143944
【Email 】 t.tamayama.fr@gmail.com
【instagram 】 deepcare_taka


守隨亨延

ジャーナリスト。ロンドンで大学院卒業後、東京で雑誌記者として活動し、渡仏。『地球の歩き方』フランス/パリ特派員。 株式会社プレスイグレック https://presseigrek.com/