【今月のお客様】ジャンマリー・プルドン さん

福岡を拠点に「Nautilus – Culture et langue française à Fukuoka」を主宰してフランス文化の普及に努めるジャンマリー・プルドンさん。プルドンさんは以前フランス語作品の専門書店「Nautilus」を開いていました(残念ながら書店は昨年閉店)。本が大好きなプルドンさんに日仏の書店の違いを聞きました。( 取材 編集部)

フランスの書店員から日本の書店経営

フランス語専門書店を開いた理由は?

日本ではこんなにフランスに興味がある人が多いのに、フランス語の本の専門店が少ないのは驚きでした。だから「Nautilus」をオープンしたんです。
店内は、原作がフランス語の日本語の本を並べていて、カフェスペースもあって話もできる場所。いろいろな方から「Nautilus」を「面白い」と言われましたが、本の購入まではつながらない。僕は販売の仕事のくせに、押し付けるのは好きじゃなくて(笑)。仏語原作は難しいと思う人が多かったのかな。あとお店の経営者としても初めてだったし、コロナ禍もあって難しかったです。今はフランス語の先生をしていますが、そのうち僕のできる範囲でまた本に関わることをしたいなと思っているよ。

なぜ日本に?

僕はフランスのナント出身で、高校では書店の販売や経営について学んで、卒業後はフランスの書店員として4年間働いていました。でも1年間だけ海外に住んでみたくて、当時フランス人の友だちがいた大阪で1 ヶ月過ごした後、2006年に来日しました。絶対日本とこだわっていたわけじゃない。日常から離れて別の場所に住んでみたかった。そのあと、日本人と結婚して福岡に住むことになったんです。

それ以外で日本に興味があったのは?

『AKIRA』(大友克洋)と松本大洋の漫画は好きでした。フランスでも人気があります。松本大洋は、絵の描き方を作品によって変えているのが芸術的。
商品としてパターン化されて作られている少年漫画とは違うところがフランス人は好きなのかな。

「二人の読者」が話せるフランスの書店

日仏で書店の違いは?

フランスの書店は接客時間が日本の大型書店よりはるかに多いですよ。日本では代わりに書店内で「ブック・コンシェルジュ」という別の職業があったりして、わけがわからないね! コンシェルジュがやってることは、フランスの書店員の仕事だから。
 たとえば、日常の買い物は、自分の好きなパン屋さんや八百屋さんに通うよね。フランスは本屋さんもそう。自分の本屋さんがあって、あの書店員のおすすめが好きだから行く。お客と店員というよりは、二人の読者が話すという関係なんだ。お互いに本が好きだから、話が止まらない。でも日本は在庫管理や返品作業がすごく多いし、年間の本の刊行点数もフランスの2倍だし、だいぶ違うね。

接客についてはいかがでしたか?

僕はフランスと同じように店で本の話をしていたんだけど、みんな買わないで帰っちゃう。「面白そうでしょ!」「面白いね!」「じゃ、また!」みたいな感じ(笑)。最後のはフランスにはないよ。フランス人のお客さんは買ってくれることが多い。失敗もあるけど、あんまり気にしない。日本では自分が知らない世界の本を読むのが怖いのかな。僕も半分しか内容が理解できない本だってあるし、全部分からなくてもいい。日本人は効率を考えすぎだなと思う。読書はそんなもんじゃない。


お客さんにも日仏で違いが?

日本人がどうやって本を買うのかは、未だに分からないね。僕が驚いたのは、作家名よりも翻訳者の名前で本を買う人が多かったこと。いい先生だから買う。おすすめがあると買う、みたいな。本屋大賞や凝ったポップを書店員が考えてるけど、フランスは書店員がちゃんと読者と接する機会が多いから、ポップは付箋にさっと書いて貼るだけだね。

おススメのフランス語原作の本は?

まず、サン・テグジュペリの『人間の土地』。彼の作品で有名な『星の王子様』の元になったと言われるお話。作者がフランスからベトナムへ飛行中に砂漠に不時着した時の実話で、『星の王子様』に出てくるキツネ(「フェネック」という砂漠のキツネ)の足跡を追う話もあります。もう一つはジャン・ジオノの『木を植えた男』。これはフィクションですが、作り話なのを隠していたら、読者が南仏まで主人公を探しにいってしまったというくらい人気がある本です。
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