バラを持つマリー・アントワネット
エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン
ヴェルサイユ宮殿

1783年、一輪のバラを持ち、煌びやかなドレスに身を包みレースをふんだんに使った帽子を被り、優雅にこちらを見るマリー・アントワネット。その視線の先には、若き女流画家エリザベートの姿がありました。18世紀、宮廷お抱えの画家となった女性です。

 パリに生まれ、幼い頃から絵を描くのが好きだったエリザベートは、父親から手解きを受け、15歳ですでに職人としてのキャリアをはじめました。画商のジャン=バティスト=ピエール・ルブランと結婚し、サロンなどで作品を展示し、貴族の肖像画を描くようになります。その腕前は、ヴェルサイユ宮殿にも届き、24歳の時ついに王妃マリー・アントワネットの肖像画を描くために招かれます。同い年だった二人は打ち解け、王妃のお気に入り画家兼親友になりました。

 現在、目にするマリー・アントワネットの肖像画の多くは、エリザベートの手によるもので、彼女の描く人物は誰しもとてもやわらかな表情で、気品に満ちて見えるのです。マリーもそれが気に入ったのかもしれません。当時、彼女の描く王侯貴族たちの肖像画は、ファッション雑誌みたいなものでヨーロッパ中で人気となりました。現代においても18世紀の華やかなロココ様式を研究する上で貴重な資料でもあります。

 フランス革命後、彼女にも身の危険が迫り、ヨーロッパ諸国で亡命生活を続け、その間も各国で王侯貴族を描きました。時代に翻弄されながらも逞しく生きたエリザベートは、12年後ようやくフランスに帰国し、その後も画家として長く活躍しました。因みに、彼女の作品の中で一番美しいと言って過言でない作品は、彼女自身の自画像まさに才色兼備。彼女の宮廷での成功は、画力のみならず彼女自身の魅力も相まってのものだったのでしょう。


妹尾優子

仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「Lecture de l’aprèsmidi」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
https://note.com/tabichajikan/m/md750819c9bc7