つい先日、日本円をユーロに替えようと思い、グラン・ブルヴァールとリシュリュウ・ドゥロウオの間にある両替所へ行きました。そこは旧証券取引所から程近く、古銭屋などお金にまつわる店舗が並んでいます。グラン・ブルヴァール駅で降りてモンマルトル通りを歩いていると、これまでに見たことのない行列が見えます。皆が見つめる先を辿ると、そこにはグレヴァン美術館がありました。僕にとっては、地球最後の美術館となっても、行く気がしない場所。有名人を象った人形を見て何が面白いのか。それはそうと、僕が渡仏した30年前はホコリっぽいオンボロ美術館というイメージでしたが、近年改装を終えて人気スポットになっているようです。並んでいる人を見ると、観光客もいるけれど、フランス人もたくさん。グレヴァン美術館は、ロンドンのマダム・タッソー館から50年程遅れること1882年に創業の私設蝋人形館。17世紀まで、フランスには王の死後に王ソックリの蝋人形を作り展示することが一般的だったそうで、それが宮廷芸術と結び付き、王族の間で蝋人形を作らせることが流行となったそう。王党派だったマダム・タッソーは、フランス革命で命拾いし、ロンドンに渡って成功を収めましたが、蝋人形の制作はフランス人の得意分野となっているようですね。


 さて、問題の地下鉄広告です。長年フランスに住んでいれば全員判る有名人揃い。奥から歌手のエディット・ピアフ、クチュリエのジャン・ポール・ゴルチエ、ナポレオン・ボナパルト、女優のブリジット・バルドー、そして一番手前がなぜかパティシエのピエール・エルメ。自らが考案したライチとフランボワーズとバラを飾ったイスパアンを手に持っています。フランスの今の顔がピエール・エルメだったとは、30年パリに住んでいる僕も知りませんでした。それにしても謎過ぎる。何か政治的な力が働いたのでしょうか。今度謎解きのために、改心して美術館へ行ってみようかな。いや、多分行かない…。


清水友顕

●友くんのパリ蚤の市散歩 
http://tomos.exblog.jp

トモクンという名の45歳。在仏27年。ファッションジャーナリスト(業歴17年)は仮の姿で、本当はただの廃品回収業(業歴5年)。詳しくはブログ『友くんのパリ蚤の市散歩』にて。