パリで西洋音楽から民族音楽のミュージシャン、箏、津軽三味線奏者などと、幅広く演奏活動をしている尺八家のクレアシオン桂さん。元々はフルート奏者としてフランスに留学、勉強していたなかで日本の伝統笛「尺八」の魅力に改めて気が付いたそうです。今号はフランスに暮らす桂さんに、彼女の軌跡とこれからについて伺います。

ワインの瓶でも吹ける!?

尺八はフランス人にどう受け止められていますか?

 今は禅宗から興味を持って尺八を習うフランス人がいるほど日本文化は人気です。テクニックよりも一音でもいいから尺八の音が出したい!と言っている方もいるくらい。フランス人は日本文化の「悟り」とか「渋さ」が合う人も多いのかなと思います。

 私の演奏も様々で、パーティーではワインの瓶を尺八のように吹いて、指輪を瓶に打ち鳴らすパフォーマンスをすると盛り上がります。元々フルートを吹いていたので、バッハやドビュッシーを尺八で吹いたり、逆にフルートを尺八の吹き方で吹いたり。尺八界の人には絶対できないことのようで、「手品をみているみたい!」と言われることもあります。もちろん伝統的な古典曲を演奏することもありますよ。

元々フルート奏者ということですが。

 はい。高校は音楽科に進みましたが、半ば意地で続けていたようなところもあって、受験した芸大は不合格。フルートはやめようかなと思っていた矢先、偶然パリ管弦楽団の首席のフルート奏者のアカデミーを覗いたんですが、見学中に居眠りしてしまい、他の人に怒られたんです。恥ずかしい!と思っていたらそのフランス人の先生がニヤっとしてウィンクしたんですね。それを見て感動して(笑)、この人につきたいと思ったんです。

そのままフランスに留学されたんですか?

 その先生のいる音楽院に入るには試験があるんです。生徒もハイレベル、私は今まで何をしてきたんだろうと思うくらい。ベストを尽くしてだめなら仕方ないと練習に練習を重ねて受けたら、合格。先生に尋ねたら「君は技術的には上手ではないけど、音楽性、感性がすばらしい。その表現方法を教えてあげたい」。そんな風に言われて、何が何でも期待にこたえたかった。それで一度帰国して、学生ビザをとって1990年に19歳でフランスに来ました。

日本人の私にしかできないこと

尺八に興味を持ったきっかけは?

結局27歳までにフルートで3つの音楽院を出たのですが、勉強する中でフルートの現代曲は尺八にインスピレーションを受けていることに気が付いたんです。それから、あるコンクールで邦人作曲家の曲を吹くと、「曲の解釈がすばらしい。でもなんで君は日本人なのに西洋のフルートを吹いているの?どうして日本の笛を吹かないの?」と聞かれた。この言葉はすごく引っかかっていましたね。

直接的なきっかけは、2007年にたまたま聴いた尺八と琵琶が入った武満徹作曲、小澤征爾指揮の「ノヴェンヴァー・ステップス」です。衝撃的でした。尺八のイメージがガラッと変わって「尺八をやってみたい!」と思ったんです。すぐに楽器を買って、最初の半年は独学でしたが、フルートとは吹き方も全然違うし、やはり師匠についたほうがいいなと古屋輝夫先生のところへ弟子入りしたのが2009年です。フルートはここまでやって悔いはない。これからはパリで、日本人の私にしかできないことをやりたいなと。

桂さんにしかできないこととは?

私は尺八一本で!という気質ではなくて、好きなことをいろいろな方法で表現していきたいタイプです。今の私はヨーロッパで唯一の日本人女性尺八家であり、フルートも吹けるので、音楽院でフルート科の生徒に尺八のワークショップをすることもできます。尺八だけ、フルートだけではないことを日本人としてやっていければと思っています。

これからやってみたいことは?

尺八を吹くときの着物も、息が苦しくならないように自分でリメイクしていて、今年の春に「Sakura-couture(桜クチュール)」という個人ブランドとしてスタートしました。

コロナ禍を経て、これからはパリだけでなく、中央フランスにも拠点を置いて、アーティストが活動できる場を作れるようにしていきたいと思っています。また双子の作曲家(高畠亜生)と組んでいるツインユニットJumelles(ジュメル)で、和と洋をコラボした創作活動も展開してゆきたいと思っています。

www.jumellesmusic.com 

www.sakura-couture.com