パリ国際大学都市日本館の中に門外不出の藤田嗣治の壁画が二枚ひっそり飾られています。その所以を辿ると様々な歴史が見えてきました。


 ところは、パリ14区、RERのB線 Cité universitaire 駅の目の前にある、Cité Iinternationale Universitaire de Paris (通称シテユニベルシテ)と言われる国際学生寮です。
 パリ国際大学都市は、第一世界大戦後、平和主義への懸念から、学生交流の場を作り、世界平和そしてそのための人間関係の構築の場にしようと1925年当時のフランス文部大臣アンドレ・オノラの提唱により創設されました。各国が出資しそれぞれのお国柄を感じる建物が今も学生寮として使われており、Maison du Japon と呼ばれる城郭を思わせるような建築の日本館もこの中にあります。
 日本政府は、関東大震災のあとで資金不足のため、一旦は出資を断ります。しかしフランスに留学経験をもつ、時の元老、西園寺公望はどうにかできないものかと、当時パリの社交界で名を馳せていた大富豪、薩摩治郎八に出資を依頼しました。彼は快諾し、通常国家予算から出す建築費用を一人の民間人の出資により賄い、日本館建設が実現したのです。それゆえ日本館は、薩摩館とも呼ばれたりします。彼の功績はそれだけではなく、当時パトロンとして面倒を見ていた藤田嗣治に館内に飾る壁画を依頼します。まるで屏風のようなその壁画「欧人日本へ渡来の図」「馬の図」は、今も日本館にあり、実は誰でも鑑賞できます。ここでしか見ることのできない貴重な作品。パリにお住いの方、パリに行く機会のある方は是非足をのばしてみてはいかがでしょうか。

*拝観料2ユーロ


妹尾優子

仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「 Lecture de l’après-midi 」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
https://note.com/tabichajikan/m/md750819c9bc7