ルーヴル美術館でぜひ見ていただきたい一枚。前例のないものは認められない時代、新しい分野を切り拓いた作品です。18世紀前半、絶対王政を極めたルイ14世亡き後、堅苦しく窮屈な状態から解放された貴族たちは軽くて楽しいもの、華やかで美しいものを求めるようになります。ロココの時代です。その頃、絵画分野で時代を切り拓いたのがこの絵の作者であるヴァトー。ロココにおける絵画の創始者です。代表作、シテール島の巡礼の別名フェートギャラントはロココ絵画の一般的な呼称にもなりました。


1712年、王立絵画彫刻アカデミーはヴァトーに正会員になるための資格作品を求めます。主題は自由。通常アカデミーの試験はお題に沿って描かれるので、これは異例中の異例。むしろアカデミーがヴァトーを入れたかったのかもしれません。その時提出したのがこの作品。シテール島は、古代ギリシャ神話で愛の女神ヴィーナスが上陸したとされる島。この島を訪れると恋愛が成就すると言われ愛の聖地として人気でした。
堅苦しいアカデミーに受け入れられ、色恋を好む貴族にも好まれた理由は、彼の世俗的な視点と画力にあります。ヴァトーは、宗教画、風俗画の模写、室内装飾デザインなどを経験し、当時の世俗にも明るく、絵画の中に流行の衣装や貴族文化もとりいれました。歴史画では見られないような抒情的な要素もあり、人間的な親しみの持てる表現は貴族にも受け入れられたのです。また、幼い頃から絵画の教育を受け、ずば抜けた素描力で対象物を生き生きかつ繊細に捉えたことも理由のひとつでしょう。アカデミーの依頼から5年後の1717年、ヴァトーはようやくこの作品を提出。彼にとってアカデミーはそこまで重要ではなかったのかもしれませんね。


妹尾優子

仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「 Lecture de l’après-midi 」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
https://note.com/tabichajikan/m/md750819c9bc7