【今月のお客様】伊藤くみ さん

延べ1万2千人を超える生徒さんが通った料理教室「IMAGINER」を主宰する料理研究家の伊藤くみさん。ソムリエの資格も持ち、フレンチの美味しさをたくさんの人に伝え続けています。今回はフランス家庭料理の魅力から、おすすめのフレンチメニューまで聞きました。

ブロシェット(串焼き)

クラス全員分の
アップルパイを焼いた小学生時代

今のご活動は?

今年で26年目になる料理教室の主宰と、企業から依頼されるレシピ開発が中心ですね。料理教室は、フランスの家庭料理クラス(毎月)と季節を楽しむおうちごはんのクラス(年4回)。今月は、夏のビストロ料理というテーマで、ウフマヨ、具材を焼き込むビグネというクレープ、ピストゥー(バジルソース)を使ったサバのグリル、ババ・オ・ラム。必ずアミューズと前菜、メイン、デザートを作ります。ポイントを伝えて、デモンストレーションスタイルで、仕上げは生徒さんと盛り付けて、ワインも楽しむ。うちの教室では食べるのが専門でも大丈夫です(笑)。
レシピを覚えたい人も、雰囲気を楽しみたい人も、フランス好きだからでもOK。いろんな人と一緒に食事する機会があるのもいなと思います。

ポテ
昔から料理が好きでしたか?

確かに好きでしたね! 子どもの頃、小学校でクラス替えのタイミングで、クラス全員分のアップルパイを3台くらい焼いて個包装して持って行ったこともあります。母が栄養士だったので外食はほとんどせず、家の食事で満たされていました。

ご出身は? なぜフランス料理を?


出身は山形です。大学で東京に出てきて、住宅メーカーで会社員を5年やりました。仕事の後に先輩とごはんに行くことも多く、その頃から外食に目覚めました。その後、フランスに旅行して「こんなにも豊かな食文化があるんだ」と一気に興味がわきました。専門学校で学び直し、フランス料理店に入店。ブーランジュリーカフェの全国展開の仕事にも関わり、ハードでしたが達成感がありました。そして自分が本当にやりたいのは、外食産業ではなく家庭の食事を広めることだと気がつきます。会社を辞め、料理教室を始めました。特にツテもなく、当時はSNSもないのでスーパーにチラシを張ったり、美容室に置いてもらったり。最初は会社の後輩が来てくれたのが始まりでした。

いちごのクラフィティ


「シンプル」が豊かさのカギ?

子育ても同時進行でしたか?

まさにそうです。出産時の休講は、上の子の時は6 ヶ月、下の子のときは3 ヶ月だけ。当時は料理教室でやりたいことがたくさんあったので、家族の協力のもと、細々でも途切れることなく続けてきました。娘達ももう大きくなりましたが、いつも近くで見てきたので、二人とも料理には慣れていると思います。コロナ禍には当時大学生だった長女が、今は次女が、レッスンのアシスタントをしてくれています。試食係としてもなかなか適切です(笑)。

フランス料理のいいところは?

シンプルなところと、洋食の基本がすべて入っているところでしょうか。お肉を焼いて、買ってきた葉っぱをサラダにして、手作りドレッシングをかけるだけ、あとはおいしいパンとバター。一つ一つが良質ならそんなシンプルさが豊かさでもあります。また、誰かと食事をする文化も素敵だなと。例えばアペロ文化。仕事終わりに同僚や友達とちょっとしゃべって1杯だけ飲んで帰るとか。気分転換で自分の時間ね。食べ物を介しての時間の使い方も含め、料理教室で伝えたいんです。フランス料理は郷土料理がちゃんと作られ続けているのもいいところ。日本でも山形だったら芋煮などと同じで、みんながおいしいと思う定番料理は作り続けられていますよね。

ハムのリエット

フランスの郷土料理のおすすめは?

たくさんあります!(笑)フランスはもう何度も行っていますが、去年はパリとロワール地方に行きました。ロワールはすごくよかったです。横長の地域で川沿いに美しい村があるんですが、ワインの銘産地でシェーブルチーズ(山羊乳)が多い。シャルキュトリー*も充実していました。ロワール地方ならではの、トゥール産のリエットを市場で買ったり、タルトタタン発祥のホテル訪問したりしました。どれもとても美味しかったです!

家庭でできる手軽なフレンチは?

「ポテ(Potée)」がおすすめです。ポトフは鶏肉とお野菜の煮込みですが、こちらは豚肉なんです。豚肉を塩漬けにしておいてお野菜と水から煮るだけ。他には調味料いらないんです。そのまま煮るよりはも肉質がほろりとブイヨンいらずでおいしいんです。厚手の鍋で40分ほったらかしなので、冬はよく作ります。

夏であれば、ハムのディップもおすすめ。ロースハムと生クリーム、マスタード、オリーブオイルで攪拌するだけですが、5分でできてしっかり味があって、おつまみの速攻レシピです。

これからやりたいことは?

仕事では、忙しい若い世代に、手軽に作れて栄養がとれる料理を伝える機会を作りたいです。現代人は忙しいのでストレス過多。だからこそ、食で豊かな時間を作ってほしいのです。個人的には、フランスでもっとコミュニケーションがとれるように、フランス語をきちんと学びたいなと思います。できるかな?(笑)。


*ハムやソーセージ、パテ、テリーヌなどの食肉加工品の
こと
Instagram】 @kumiito