フランス人は水のようにワインをガブガブ飲むイメージを持っている日本人が非常に多い。もう少しで諭吉と交代して紙幣市場に堂々と登場する渋沢(栄一)はどうやら当時仏人が飲んでいた葡萄酒を生き血と錯覚していたらしい。実は日本人が日本酒離れしていると言われると同様にフランスの若年層も「ワイン離れ」しているそうなので最近、業界は焦りを見せはじめた。単純に昔と違って「赤ワインか白ワイン」という択一選択の代わりにドリンク類が非常に多くなってきたからだろう。どの時代にでも憂さ晴らしに飲む人はこだわりを持ちはしなかったが、2024年のフランスではいまだにソムリエを志す人も多い上、ランチと共にピシェを頼む人も決して少なくないはず。ただ飲む習慣はすっかり変わったとは言えるだろう。


 例えば4年前から始まった「Kura Master本格焼酎・泡盛コンクール」の影響かパリの一流のバーの中で焼酎を素材としたカクテルを作ったり、ハイボールで出したりする店ももはや珍しくはない。流石にお茶割りやお湯割りをそこら辺のビストロで飲める日はまだ遠いけれども、現時点で「Shochu」はすでに「おしゃれ」な飲み物として認識され、凄腕のバーテンダーにとっては必須の武器である。無理もない。加水のおかげでラム酒やウオッカよりアルコール度は25度まで下げられるし、基本的に糖質ゼロなのでカロリーも当然非常に低いのだ。ワインを飲むと「おじさんくさい」と思われるのが嫌なZ世代もいれば、ダイエットや健康的な理由でビールを避ける人も確実にいるので、その時点で「新しくて他の蒸留酒よりカロリー低い」飲み物のニーズは高いはず。何よりお酒が強い分、話題のドリンクに弱い人も多いからだ。購買力のある世代はフレッシュなネタに飢えている訳で、気づいたら「漫画ブーム」や「餅ブーム」の次に「焼酎ブーム」が到来するかもしれない。主原料は芋類や大麦、米など49食材が酒税法で認められるとはいえ、葡萄が入っていないのでそうなるとフランス人の「葡萄酒離れ」は解消どころか、さらに加速しそうだなぁ。


『焼酎の化学』
著者 鮫島吉廣 &髙峯和則
出版 講談社
Rémi BUQUET / 翻訳家・通訳者
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Rémi BUQUET