今月のお客さま むらかみのぶこ さん

今号はパリ近郊のアトリエで紙アーティストとして活動するむらかみのぶこさんにインタビュー! どこか日本的な雰囲気をもつむらかみさんの紙アート作品について、またフランス独特のアーテイスト保護の仕組みや、アート教育の違いについても伺います。

「見えないもの」と共存する

どんな作品を作っていますか?


 私は紙を折って作品を作るのですが、たとえば今は、アトリエでその日の空の色や出来事、自分の感じた気もちを入れて、1つずつ折紙を貼っていく作品を制作中です(右写真pronoia2023)。黒い紙のスパイラルは、見えない部分が常に寄り添っている感じ。世界は見える部分と見えない部分がダンスしているような、そんなことを表現しています。


どんな紙を使っているのですか?


 作品にあう紙を目を光らせて、至るところから持ってきます。画材屋や文房具屋、メトロの紙の地図やチケット、旅行した時の紙…。出会った紙を使うというか。去年の夏には、日本の伝統のこんにゃくのりを和紙にすりこむ技術を使って野外展示もできました。


紙アートはいつからされていますか?


 2002年に息子が生まれた時からです。紙は平面だけど、モジュールにすると、中に隠れた部分ができるでしょう?それが好きなんですよ。私は京都出身で、とても古い家でしたが、家の中には蛇が住んでいて、誰も見たことがない。抜け殻だけがある。蛇がいるのがわかっていて、見えないものと共存して、駆逐しない、調べない。フランス人に話すとびっくりされますけどね。蛇を模した作品や仮面を作っていた時期もあります。京都の環境は私の原風景で、作品を作る上でとても大事。日本の外に出たからこそ分かる感覚でした。

合評の機会が「話す」訓練に

アート教育についてはどうでしょう?


 こちらではアトリエ公開(*)に家族連れで来たり、小学生の時から名作に触れられる機会はありますね。公立学校のアートの時間は、自分の子どもが通うのを見ていると、質が高くいろんなことをさせる日本に比べて、そんなに面白くはないと私は思います。音楽も同じ。ただ、日本ではみんなの前で合評する機会がないけれど、フランスの学校では自分の作品について人前で話すことがよくあります。だからこちらで展示をすると日本人は自分の感情や理論をきちんと話す訓練をしていないので、ハンディがあるなと思います。


息子さんはアートの分野でご活躍と聞きましたが?


 息子は21歳でクラシックバレエのダンサーです。娘は今12歳で、ノートルダム合唱団で6歳から歌っています。フランスには、音楽やアート、スポーツを真剣にやっている子が学業と活動を両立できる学校のシステム (Horaires aménagées)があるんです。たとえば、うちの娘は午前中だけ学校に行って、午後は彼女の合唱団の活動に行ったり。狭き門ですが、そういう子たちが入れる公立学校が各地にあります。そうじゃないと子どもたちが疲れてしまいますよね。フランスでは子どもに夜中まで活動させて疲れさせるのをとても嫌うのです。日本と同じなのは、親が精神的・身体的なサポートをすることですね。


これからやってみたいことは?


 アーティスト・イン・レジダンス! (résidence d’artistes)今までは子育てで精いっぱいだったので、日本でもどこでも、どこかにいって、そこで作品を作って発表してみたいですね。


*アトリエ公開 アーティストのアトリエを地域住民に公開する交流イベント。フランス各地でよく開催されている。