『地球の歩き方』編集者に聞く フランスのガイドブックができた理由

今月のお客さま 坂井彰代さん

 旅行ガイドブックの定番である『地球の歩き方』。海外に行く際に誰しも一度は手に取ったことがあるはずです。その「フランス」や「パリ」といったシリーズの編集を、1985年の創刊時から担当しているのが編集者の坂井彰代さんです。その坂井さんに、当時の様子やコロナ後に注目していきたいフランスの地域などを聞きました。

(文 加藤亨延)

読者投稿をきっかけに編集部から「フランス編作って」

まず『地球の歩き方』について教えてください。

 『地球の歩き方』自体は、1979年に最初の地域であるヨーロッパ編とアメリカ編のガイドブックを出しました。フランス編ができたのは1985年。当時のタイトルは『地球の歩き方 フランス』ではなく『地球の歩き方 パリとフランスのすべて』でした。

どのようなきっかけで作ることに?

 丸の内で銀行員をしていたのですが、仕事が合わないと感じていました。そしてある時、地球の歩き方編集部に長めの投稿をしたんです。それがきっかけで編集部と繋がりができました。その後、会社を辞めてヨーロッパ旅行に行こうとして、それを編集部に伝えたら、「フランス編作ってよ」と言われて、現在に至ります。

全く違う職種から急にガイドブック作りを?

言われた時は半信半疑でした。7月下旬から半年ほどフランス旅行をするつもりだったのですが、9月頃になるとバカンスムードが終わって町に通勤客が戻ってきます。そうすると、なんだかホームシックになってしまい、日本に帰りました(笑)

今と違って当時は日本人も少ないのでは?

パリと南仏はいるんですが、それ以外の地方を旅する人はあまりいませんでした。日本で卒業旅行がブームになってきたくらいの時期でしたが、今のように個人で安いチケットを買える時代ではなかったです。

ポストコロナには「美しい村」と「国境の町」を

編集部も結構な無茶振りですが、コンセプトなどは決められていましたか?

いえ、自由にやっていいと言われました。そのため当時のものは私のテイストが全面的に入っています。特に教会が好きだったので有名な教会がある地域を載せました。

制作にあたり当時心がけたことはありますか?

歴史や年号を並べてもつまらなく感じるため、エッセイ風の文章にすることを心がけました。とてもポエム風でしたので今読み返すと恥ずかしいです(笑)。まず「現地に行きたい」と思わせることに重点を置きました。

今は新しいスポットをどのように増やしていますか?

評判が良いところ。そして現地の観光局がおすすめしてくれるところですね。ホテルなどは、昔は少しくらい汚くても安い場所を中心に載せていたのですが、今は綺麗な施設を載せています。ただ、現在はネットでホテルは簡単に調べられますので、以前と比べてスペースの多くを割いてはいません。

2019年11月に、ご自身の著作『フランスの一度は訪れたい村』も出されましたよね。

今までのフランス取材を通じて、私が琴線に触れた30の村を、各地域圏から最低1つは選び紹介しています。観光で賑わっている村だけでなく、とても静かな村もあるのですが、どの村も共通して景観などを守ろうと村民一丸で努力しています。

ここ1年はコロナ禍で渡仏できず改定作業も延期されています。次はどのような地域にスポットを当てようと思っていますか?

フランスは多くの国と国境を接しています。今回コロナ禍によってEU域内の行き来が制限され、欧州統合で薄れていた「国境」というものに改めて注目が集まりました。国境沿いの街というのは、より独自の文化を持っていますし、その国境沿いの地域をもっと紹介していきたいです。


加藤 亨延

ジャーナリスト。ロンドンで大学院卒業後、東京で雑誌記者として活動し、渡仏。『地球の歩き方』フランス/パリ特派員。 株式会社プレスイグレック https://presseigrek.com/