本屋が悲鳴を上げる中、国語の先生たちが喜ぶ理由

 活字離れというのは日本やフランスに限らずどこの国でも進む現象だと言われる。この時代を生きる子どもはともかく、大人たちの読書時間も年々減っていく。要因はいくつかあると言われるが大体、テレビに続きネットの普及が出版業界に一番ダメージを食らわせたと思われる。しかも最近はその最強の組み合わせとして生まれてきた配信サービスが老若男女の読書時間をどんどん減らしていくだろう。近所の本屋さんが毎晩泣くのも無理はない。


 この世の中には2種類の人間がいる。最後にいつ本を読んだのかを覚えてない人と、最後にいつ本を読んだのかを覚えていると嘘をつく人。

 しかし小説やエッセイはあまり読まれないとはいえ、文学はかつてない形でまだ生きている。例えば「詩」に対する興味を持つ若者が多いのは意外な事実である。詩作する十代の子までいるし。ここは一つ。自作の詩で異性を口説こうとする自己陶酔野郎はポエマーと嘲るが、マイクを掴んで同じようなことをする音楽家はラッパーと言う。

 ラップというのは40年前から出回ってきた音楽のジャンルで日本の場合は90年台前半キングギドラやブッダ・ブランドのようなクルーのおかげで少々話題になった後、一時期人気がすっかりなくなった。ところで2010年代になるとテレビにラッパーが普通のゲストとして出たりするほど、再び社会現象になる。ただ今回は東京生まれヒップホップ育ちの悪そうな奴と同じような都会人以外も地方ラッパーが多いのがポイントだとこの本で分かる。田舎の田んぼに育った彼らは摩天楼の麓でたむろするシティボーイズと違う味のある歌詞を書き、韻を踏みながら現代日本の現実を斬新な角度で描写する。イメージしづらければ、ラジオのある村に残された吉幾三のイメージをしたらどれぐらいすごいのがきっと分かるはず。

都築響一『ヒップホップの詩人たち』

新潮社


Rémi BUQUET

フリーランス翻訳家

buquetremi@negoto.fr