■パリジェンヌ突撃インタビュー
【今月のお客さま】 金子さやかさん
シャネルもオーダーする日仏キューナリーデザイナー
ワクチン接種の進み具合と新型コロナウイルスの感染者減で、フランスではさまざまなイベント開催が順次解禁されています。それらイベントを食事で彩るのがフードデザインの仕事。イベントフード・クリエーション・スタジオ「バルボステ」を主宰しキューナリーデザイナーとして働く金子さやかさんに聞きました。
(文 守隨亨延)
パリへのきっかけは夫婦の時間を作るため
まず金子さんとパリの関係を教えてください。
パリには2007年に来ました。日本に住んでいた頃,夫婦共に仕事が忙しく、お互いの時間も取れなかったこともあって、現状を変えて海外で暮らしてみようと思ったのがきっかけです。パリに場所を決めるまではバックパッカーとして3ヶ月間ヨーロッパ各国を旅しながら、その国が自分たち夫婦に合うかどうかを確かめていました。
最初からフードデザインの仕事に?
渡仏当初はフランス雑貨を日本へ販売する会社で働いていました。しかし妊娠と育児をきっかけにケータリングの仕事を自ら立ち上げ、そちらへ少しずつシフト。Instagramで自らの料理写真を上げていた時に、2018年頃に「バルボステ」の現パートナーであるシャルロット・シットボンから連絡があり、意気投合して今に至りました。
フードデザインとは何ですか?
ケータリングとは顧客の元に出向いて食事を提供する仕事ですが、バルボステではそれをさらに発展させ、イベントの趣旨をさらに引き立てられるように食を用いてアートプロデュースします。例えば、新作の口紅の発売イベントだとしたら、その口紅とブランドのコンセプトに合わせて当日並べる料理を創作。味覚の面からも、参加者がそのブランドの世界観にアプローチできるようにキューナリーデザイナーとして提案していきます。
バルボステのお二人はどちらも料理人出身じゃないとか。
そうなんです。料理の本道にいなかったことが、逆にフードデザインにおいて斬新なアイデアを生むきっかけにもなっているかもしれません。
お互いの得意分野を活かして事業を軌道へ
仕事におけるお二人の役割は?
シャルロットがバルボステのブランディングと料理デザイン、私がシャルロットのアイデアを、和のテイストを入れつつ料理で形にしています。シャルロットは壁をぶち破るタイプ、私はできることを確実にこなしていくタイプですので、上手くバランスが取れていると思います。
対照的だと衝突することもありそうですね。
途中から、私はシャルロットが明らかに突飛なことを提案してきても、否定することはやめました。もしそこに「No」を言ってしまうと、せっかくのアイデアが普通の型に収まってしまうからです。
今まででもっとも大変だったことは何でしたか?
活動してまだ間も無く、実績も提供環境も整っていなかった頃に、シャルロットがヴァンドーム広場で行うシャネルのケータリングの仕事を受けたことです。しかもイベント当日、肝心の仕事を取ってきたシャルロットは出産予定日が近く不在。それまでは毎日不安で眠れませんでした。でも、シャネルのイベント当日、手伝いに来てくれたフランス人たちの連帯に感動しました。初めて会う人ばかりでしたが、シャルロット不在の中、外国人の私だけで仕切る場をサポート。「フランスで自分だけで抱え込まなくてもいい、もっと人を信用してもいいんだ」と教わりました。
今後目指していることは?
フードデザインの他に、まだフランスで馴染みのない日本の食材をフランスでプロデュースし販売する仕事を少しずつ始めています。私の地元である島根県雲南市は出雲大社の大しめ縄を作っている産地なのですが、その製法で作られる民芸品の鶴亀をパリに紹介することもしています。食を中心に総合的なコンサルティングをもっと広げていきたいですね。