アモルの接吻で蘇るプシュケ

アントニオ・カノーヴァ

 背後からの光に照らされ黄金色に輝く美しく甘美な彫刻。透き通るような肌。ルーヴル美術館、ドゥノン翼、ミケランジェロギャラリーの片隅。多くの人々が行き交う中、二人だけの愛の世界に浸っています。

 2世紀のローマ時代の小説に着想を得た作品。アモルは愛の神キューピッド。プシュケは美しい人間の娘。この二人の恋物語がテーマとなっています。二人は愛し合いますが、類稀な美貌のプシュケに対するアモルの母ヴィーナスの嫉妬により引き離されます。ヴィーナスとは愛と美の女神です。

 ある日、ヴィーナスの命令により冥界から持ち帰った、決して開けてはいけない美の壺をうっかり開けたプシュケは永遠の眠りにつきます。眠りから覚める方法はただ一つ。アモルのキス。愛する人のためそっとキスをするアモル。ゆっくり目を覚ますプシュケ。ぼんやりしながらも愛する人の顔を捉え手を伸ばします。この場面はまさにその瞬間。

 作者は18世紀の彫刻家カノーヴァ。解剖学、演劇、考古学、歴史、語学など彫刻の技術のため多岐にわたり勉強しました。ダ・ヴィンチもそうでした。芸術とは全ての学問の結集なのでしょうか。滑らかな体の線、ドレープ、アモルの羽一枚一枚、ふっくらとした肌感、髪の毛、彼の卓越した技術が詰め込まれた作品です。新古典主義の作家に分類されますが、溢れ出る彼の美への情熱は、厳格で道徳的なそれと一線を画し、ドラマティックなバロックの印象も与えます。彼の彫刻は、その瞬間の空気感も捉え、言葉以上に伝わるものがあるのです。


妹尾優子

仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「 Lecture de l'après-midi 」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
https://note.com/tabichajikan/m/md750819c9bc7