日本のウイスキー第一人者が認めるフランスの魅力
【今月のお客様】田中 城太 さん
フランスは世界的に見てもウイスキーの消費量が多い国です。初めての海外進出先にフランスを選んだのが飲料メーカーのキリンです。同社のウイスキー「富士」などを開発してきたマスターブレンダーの田中城太さんに、お話を聞きました。
キリンの初進出先はフランス
田中さんの経歴について教えてください。
キリンビール株式会社の富士御殿場蒸溜所でマスターブレンダーをしています。入社後、ナパバレーのワイナリーに勤務し、カリフォルニア大学でワイン醸造学の修士課程も修了しました。2002年に再度渡米し、弊社傘下のケンタッキー州のフォアローゼズ蒸溜所にてバーボン製造および商品開発全般に携わりました。帰国後はキリンビール商品開発研究所でブレンダー業務に従事し、2010年からチーフブレンダー、2017年から現職です。
ブレンダーをしてきて楽しかったことは?
ブレンダー室で原酒と向き合っている時に、想像を上回るようなすごく魅力的な香りにめぐり合う喜びは格別です。たとえば、フォアローゼズの原酒で赤い薔薇の花びらの香りを感じた瞬間は、衝撃で体中に電気が走りました。
「富士」などの他に担当した代表的な飲料は?
ウイスキー以外には、氷結というチューハイのプレミアム商品でシャルドネスパークリングというのがあるんですが、私がナパのワイナリーで体験した、発酵中のまだ泡がシュワシュワしているシャルドネの美味しかった味わいが商品化のきっかけです。
キリンのウイスキーの初海外進出先がフランスですね。
2017年から販売しています。初年にはパリ市内の百貨店でプロモーションなども行い、これまでほぼ毎年、商品PRのためにパリを訪れています。
食文化が豊かだからこそ受け入れられる
パリでも酒屋には必ず日本のウイスキーがあります。
じつは1990年代から2000年代初めまで、日本のウイスキーはまだ世界でほとんど知られておらず、国内では1980年代の中盤から市場は収縮していました。社内でもウイスキーはお金を産まない不動在庫と言われていた苦難の時代もあるんです。それが、今ではウイスキー原酒は「宝」と呼ばれているんですから、世の中不思議なことばかりです(笑)。
なぜ海外進出を考えなかったんでしょうか?
弊社の場合で言うと、海外から取り扱いたいとのオファーは戴いていたのですがお断りしていました。私たちは日本国内のお客様向けの商品のみをつくっていました。海外展開を考えはじめていた時に、ちょうど声をかけてくれたのがフランスの会社でした。味わいだけでなく、蒸溜所の歴史やユニークさを評価してもらい、フランス進出が発端となり、あれよあれよと今の状態になりました。
フランス文化とウイスキーの近さは感じますか?
ホームパーティなどでは食前酒としてもよく飲まれるそうですし、実際、お客様と話をしていて、ウイスキーへの関心の高さには驚いています。
フランスが持つ食文化とも親和性は高そうですね。
ウイスキーもワインと同じくグラスのサイズや形で香りや口当たりが変わるため、私たちは、ソーヴィニョンブラン用のワイングラスをモデルにオリジナルグラスを作って、その楽しさをお伝えするセミナーなどを開いています。フランスの人々は香りと味を愛で、それを表現し、会話する楽しみを知ってらっしゃるので、私たちのウイスキーを楽しんでいただける可能性を強く感じています。
今後の目標は?
二つあります。造りについて言えば、魂を揺さぶるウイスキーを造りたいですね。もう一つは、ジャパニーズウイスキーの魅力を正しくお客さまに伝えたいです。
ジャパニーズウイスキーとは、決めたられた原材・製法で、日本国内で糖化・発酵・蒸留・熟成・ブレンド・びん詰めしたウイスキーのことです。ジャパニーズウイスキーの評判の高さに便乗しようとする怪しいウイスキーも海外では非常に多く出回っています。私は、ジャパニーズウイスキーの定義を決めた一人でもあるので、その魅力を海外を含めて、しっかりと伝えていくのが役目だと思っています。