民衆を導く自由の女神

ウジェーヌ・ドラクロワ(ルーヴル美術館)

 今月は名画中の名画のご紹介。ウジェーヌ・ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」。フランス語では、「La Liberté guidant le peuple」 (民衆を導く自由) となります。女神という単語はありませんが、日本語訳では中心にいる女性を女神と見立てたのではないかと思われます。この女性はマリアンヌと名付けられ、フランス政府の公式なシンボルとして、各省庁のHPや切手などに見られます。


 テーマは七月革命。フランス革命から40年後、復古王政の国王であったシャルル10世は、自由主義の勢力を削ぐため、議会の解散、出版の自由の停止などを命じました。それに反対した市民が1830年7月に起こしたのが七月革命です。また、画面左側にシルクハットを被って拳銃を持っているのはドラクロワ自身であるとか、右側の二丁拳銃を持った少年は『レ・ミゼラブル』に出てくる浮浪児の少年ガヴローシュのモデルになったなど、この絵に関してはトリビアもいくつかあります。トリコロールの旗を持って、屍をこえ、民衆を率いる姿は、当時自由を求めるフランス人にとって勇気と希望を与えたことでしょう。

 ところで、この作品は、1998年-1999年、日本におけるフランス年の一環として、この作品がラッピングされたエアバスベルーガで来日し、東京国立博物館で特別展示されました。日本からも国宝法隆寺の百済観音像が貸し出されています。超弩級の夢のお宝交換でした。ちなみに、マリアンヌの被っている赤いフリジア帽はフランスでは自由の象徴で、2024年パリオリンピックのマスコットのモチーフにもなっています。これからこの作品もフリジア帽も見る機会が多くなるかもしれませんね。


妹尾優子

仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「 Lecture de l'après-midi 」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
https://note.com/tabichajikan/m/md750819c9bc7