親のやることと牛の鞦は外れることもある
定年退職した両親が何故か急に「家系」に興味を持ち始めた。濃厚な豚骨醤油ラーメンに突然にハマったわけではなく、祖父母をはじめ自分の先祖がいつ生まれいつ他界したのかを調べたりするのが趣味になっただけ。基本的には埃まみれの資料から情報をなんとか吸収してなるべく過去を遡ろうとして暇を潰している。久しぶりに電話したら「今1689年なの」と母から言われ、ボケが進んだのかと思いきや単純に調べ物でルイ14世の時代まで遡れていたのだ。素敵な暇つぶしといえば素敵…当時の衣装で外出されない限り。
昔から日本で「大家族」を中心にした番組が放送されてきたが、こちらのイメージで言うと子どもが5人以上いるのは宗教的な理由で避妊具を毛嫌いする家庭か、ドリカムのように未来予想図を描けるほど透視力が欠けている家庭のどちらかしかありえない。とにかくそのような番組がつい最近フランスで話題になったのは8人のママが長男の了解を得てAV女優デビューしたからだ。「この国終わったわ」とまた呆れるところだったが、そういえばビッグダディもセクシー業界に進出したのを思い出した。青かろうが黒かろうが結局お金に眩む目に色は関係ないな。
友達と違って家族は選べないと言われがちだが、小説家は違う。自分の書いた物語に登場する人物の血筋まで設定を細かく決められるので、兄弟数を増やしたりとんでもない親戚をいれたりすることができてわりと贅沢。ほぼ40年前から『マロセーヌ』という推理小説シリーズを書いたダニエル・ペナックはずっと同じ家族を描写し、大勢のキャラクターを生み出した。今月はそのシリーズの最終作がフランスで出版されたばかりだが、著者本人もわからなくなるほどこの家族の構造があまりにもめまぐるしくて、読者が理解できるよう家系図が付録として本に付いていたらしい。実際の家族はともかく、空想の家族も相当手間がかかることもある。
『ムッシュ・マロセーヌ』(白水社)
ダニエル・ペナック 著/ 平岡 敦 訳
Rémi BUQUET
翻訳家・通訳者
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