ガラガラ奪われた若き王の怒り
今月の一冊
『あきらめない政治 ジャーナリズムからの政治入門』
鮫島浩 著
那須里山舎
フランスでは選挙タイム。また? と思われるかもしれない。無理もない。三週間前は欧州議会選挙が終わったばかりだ。しかももうバカンスシーズンに入っていたから、休みを何より大事にすると思われがちのフランス人はてっきり何もかも捨てて自分の選挙区からなるべく遠い砂浜に出掛けているのではないかと誰もが予想していたのだろう。オリンピックもじきに始まるし、こういうビッグイベントの時こそ国が政治的に安定しないと非常にまずいはず。
しかしまるで玩具を取られて拗ねた子どものように今回大負けしたマクロン大統領が一方的に議会下院を解散させたことで突如再び選挙が決まった。政治部記者のバカンスの予定がまる潰しになった上、ネットどころか国自体が炎上状態。
大統領制は隠れ王政だと言われるほど大統領の座に座る者は圧倒的な権力を握っているが、その分、ある種の「国家の父」らしく、国民の声を尊重しながら礼儀正しく振る舞わないとかつての王のようにその国民の反発の的になりえる。
ポピュリズムが世界を席巻する中、優秀な頭脳の持ち主だと言われるにもかかわらずマクロン大統領がなぜかその危機を全く感じとらず、国民を蔑ろにしながら国家より「欧州の父」を志していたようにフランス基準ではなくヨーロッパを中心に話したりするのが本人が思っているより致命的なミス。一方、いわゆる移民問題を直視すらしない極左はより難民を受け入れるべきだと掲げたりすることで、国民の怒りの火に油を注ぎ、政策を間違えたと思われる。どうりで大雑把なマニフェストしか提出してないのに極右と言われる政党がそんな簡単に最大勢力になった。
フランス人の三分の一が突然にナチスになったのではなく、この不景気で国民の苦情に耳を傾けようとすらしない大統領と全く別な話をごり押ししようとする政党にただただうんざりしてるだけだ。
少なくとも半世紀前から不満が積もってると思われるが、臭い物と同じく、溢れ出しそうなお湯に蓋をするのは決して賢明な解決法ではない。特にバカンスで家を出ようと思った時期に。