知る人ぞ知る歴史的建造物 パリ最後の男性用公衆トイレ“ヴェスパジェンヌ”

 暖かくなると、日曜日に14区のダンフェール・ロシュローと13区のゴブランで、住民が参加する古物市が行われます。古物業を営む僕は、大抵の場合ヴァンヴの蚤の市から買い付けをスタートし、その後ダンフェール・ロシュローへ行き、アラゴ大通りを歩いてゴブランまで行くのがコースなのですが、そこを通る度にドンヨリとした空気に包まれた大きな壁が見えて来ます。それが何なのか気にしていませんでしたが、ある時脇の道にある門のところに女性たちがただならぬ雰囲気で並んで待っているのが見えてその場でネットで調べたところ、サンテという劣悪な環境で悪名高い刑務所だと判明。これまでにカルロス・ザ・ジャッカル、アポリネール、ジャン・ジュネなど錚々たる人たちが収容され、日本からは大杉栄と佐川一政も滞在していたそう。アナーキーな面々ばかりでスケールが違います。先述の女性たちは、囚われの身となった人々との面会のために列をなしていたのでした。

それはさておき本題。その刑務所の壁の前に、見るからに古くて異様な箱状の物体があります。実はこれ、1870年代に設置された男性用公衆トイレ(Vespasienne)で、正真正銘のアンティーク。2人同時に入れる公衆トイレとしてはパリで唯一残るもので、ある意味貴重な歴史的建造物でした。利用したことがあるのですが、約150年の歴史は深く重く、染み付いた臭いが強烈で涙が出そうでした。

 殺伐とした高い壁と、その前にある骨董品の公衆トイレ。何とも物悲しいけれど、センチメンタルな気分に浸り方にはピッタリのシチュエーションかもしれません。ただし、近付き過ぎると鼻が曲がるので、通りを渡ったところからの観賞をお勧めします~。


トモクン

トモクンという名の45歳。在仏27年。ファッションジャーナリスト(業歴17年)は仮の姿で、本当はただの廃品回収業(業歴5年)。詳しくはブログ『友くんのパリ蚤の市散歩』にて。

●友くんのパリ蚤の市散歩 
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