■パリジャン突撃インタビュー■
ようやく営業再開の飲食店 バー店主に仏コロナ禍を聞く
【今月のお客さま】
松井豪さん
フランスでは5月19日から半年ぶりにバーやレストランの営業が再開しました。テラスそして店内と、段階的に営業可能な範囲が拡大。状況に少しずつ明るさが見えています。一方で、度々行われたロックダウンは社会に大きな影響をもたらしました。パリの飲食店経営者はコロナ禍をどう感じたのか? ワインバー「マルゴ」を営む松井さんに聞きました。
(文 守隨亨延)
死にはせずとも生きるのが難しい個人商店
まずはご自身のことを教えてください。
2011年にフランスで飲食店を開くためにパリへ来ました。ボルドーでフランスのソムリエ資格を取得。2016年12月にパリ市内11区のオベルカンフに念願のワインバー「マルゴ」をオープンして現在に至っています。
コロナの影響はどうですか?
とても厳しいです。特に昨年3月のロックダウン当初は、外を歩いている人は全くいませんでした。その後の外出制限は最初ほどの厳しさではなかったですが、飲食店にとっては閉鎖が続き、今回は7カ月ぶりにお店を開けます。
コロナの影響とフランス政府による支援策はどうですか?
従業員の給与の8割は国が補償、会社へは月1万ユーロもしくは前年同月の2割の補助が出ました。経営者個人には直接の補償はありません。従業員のやる気を維持するためにテイクアウトなどをやるお店などもありますが、うちの場合はワインを売ってなんぼのお店であるため、持ち帰りや配送は現実的ではありませんでした。小さい個人商店について言うと「補償で死にはしないが、この先生きながらえていけるかといったら難しい」といった感覚でしょうか。
コロナ禍を機会にお店をたたんだ所も多いですよね。
実は私も、これを機会にパリでの活動をひと段落させて、東京都内でポップアップ型のワインバーを作ろうかと考えています。飲食店を休業日など空いているタイミングで貸してもらい、そこで例えば、今回は「天ぷらとワイン」その次は「フレンチとワイン」など、テーマを決めて限定開店します。その後、軌道に乗ってきたら日本とフランスに2つ店舗を持ち、両国間で色々な交流ができるようにしたいです。
パリでの苦労と楽しさ
パリでの暮らしを振り返って一番の苦労は何でしたか?
お店の立ち上げでしょうか。当初、日本語ができるフランス人に出店や滞在許可証などの手続きを代行してもらっていたのですが、その代行者と途中から書類ごと連絡が取れなくなったことがありました。何とか書類だけ返してもらいまして、代行を通さず自分でやったら、2週間でできたというオチでしたけれど(笑)。
他にもいろいろ経験していそうですね。
全体的にフランスは日本と比べてレスポンスが遅いです。例えば、お店の給与明細は自分たちでは作れず、必ず会計士を通して作成しなければいけないのですが、その作業が遅く書類が揃わないため、手元にお金はあるのに期日に給与を払えないこともありましたね。
流通面も異なるのでは?
そうですね。日本は配送がしっかりしているため、在庫が切れても発注すれば翌日に届きます。そのため店内にストックを持つ必要がありません。フランスの場合は日本のようにスムーズにはいかないため、一度にまとめて発注します。ワインの場合は、年に数回注文して、その品物が届くのが3週間後とか。それをお店の地下などにある保管用のカーブに入れておきます。
不便な部分はありますが、それを上回る楽しさもありますよね。
ワインに関して言えば、フランスはワイン愛飲者の裾野が広いですから、ワインを出している側からしても楽しいです。飲み慣れていることもあり自分なりの判断基準を持っています。価格に対してもシビアですね。一長一短です。
フランスの経験を今後にどう活かしたいですか?
人と一緒にいられることをもっと簡単に、もっと楽しめる場所を作ることができればと思います。お客さま、従業員、チーム、全ての人に「楽しい」が広がっていけばいいですね。