ショパンゆかりの地、ノアンでピアノコンサート

【今月のお客様】

黒住友香 さん

今年4月に開催された「ノアン・フェスティバル・ショパン・イン・ジャパン・ピアノコンクール」で一位入賞したピアニスト黒住友香さん。このコンクールは入賞者の中から音楽祭「ノアン・フェスティバル」や、関連する演奏会の出演権が選考されます。ショパンが、売れっ子作家だった恋人のジョルジュ・サンドと毎夏を過ごしたのがパリ近郊の街、ノアンです。今年はノアンの「ジョルジュ・サンドの館」でショパンの命日を偲ぶコンサートがあり、今回入賞者の中から選ばれた黒住さんが出演されます。

もう一度 夢に向かってチャレンジ

私は京都芸大を経て東京藝大大学院ピアノ科に入り、現在は演奏活動と後進指導に力を注いでいます。幼い頃の夢は「ショパン国際ピアノコンクール」で優勝すること。でも、年齢を重ねるにつれて、ショパンの作品の偉大さに足がすくみ、自分の力不足を感じたり…、そんな言い訳をして、夢に挑戦すらしなかったんです。そこからずいぶん時間がたった昨年、ちょうどショパン作品に取り組んでいた時にこのコンクールを知りました。ノアン・フェスティバルは、2016年には50周年を迎え、超一流ピアニストが演奏してきた素晴らしい音楽祭。あの頃の夢に、形は違えど一度は正面から向き合いたいと思いましたし、ノアンで演奏するという夢みたいな経験をしたいと強く思いました。

 素朴な自然に囲まれた街という印象ですね。今年はショパン国際ピアノコンクールの年だし、このフェスティバルも街自体も盛り上がってるんじゃないかな。ジョルジュ・サンドの館では、ショパンの名作が次々と生み出され、サンドとの幸せな日々・病気との闘い・サンドとの別離など…酸いも甘いも噛み分けたショパンの記憶が残る特別な場所だと思います。また、ショパン自身が親しい友人を招いて演奏していた場所でもあるので、演奏時のお客様との距離は近いと思います。

はい!初めてなのでワクワクしています。ショ パンを愛する現地の方々がコンサートにいらしてくれたら嬉しいですね。パリに立ち寄れるのも楽しみです。ショパンは祖国ポーランドを離れた後は 長くパリで活躍していたので、パリの空気を肌で感じたいです。そして彼に関連したロマン美術館や、新しいノートルダム大聖堂も見てみたいです。

恥ずかしながら、全くこれまで触れることがなくて…。だから自己紹介ぐらいはできるようにしたいと思っています。英語しか話せないので、後はノリで行くしかないかな(笑)。

ショパンが生涯を通して日記のように書き残したマズルカからOp.30、ジョルジュ・サンドとの破局寸前に書かれたバルカローレ、そしてコンクールでも演奏したショパン円熟期の作品ソナタ第3番を演奏します。このプログラムを通して、作曲家ショパンとしてだけではなく一人の人間としてのショパンの心の機微を繊細に表現することを目指したいです。

技術よりも細やかな表現を 評価するフランス人

 はい。ピアニストにとって、最も密接な関係にある作曲家は、やっぱりショパンかなと。ピアノという楽器を知り尽くしたショパンの自然なピアノ書法で書かれた作品は、ピアニストにとっては本来母国語で話すような感覚で演奏ができるものだと思うからです。また、私自身この数年は、結婚・離婚など人生のアップダウンを経験して、ショパンの壮絶な人生には及ばずとも、彼の内面の光と影の部分に対してより具体的に思いを巡らせることができました。ですからここ最近は特にショパンに共感して、彼の作品に救われる経験ができたのはピアニストとして幸せでした。そういう意味でもすごく特別な作曲家でしたね。

今回のコンクールの審査員長がフランス人で、審査員ではない他のフランス人も聴いていらして、彼らと後で少しお話しました。日本はどちらかというと、演奏の技術やわかりやすいコントラストの表現が評価される傾向にあると思うんですが、フランスは技術より内面の細やかなひだの表現にフォーカスして聞いている印象を受けました。フランスのお客様の反応を、今度のコンサートで感じられるといいなと思っています

ありのままの今の自分の演奏を聴いていただきたいなと思っています。私は技術には全く自信はないんです。コンクールでは私よりももっと完璧な演奏者は他にたくさんいらして、そこは自分に足りない部分なのですが、それよりも細やかな音色のニュアンスや表現を磨くことに情熱を燃やしたいと思っています。そして、これからの人生の様々な経験が音楽に加味されていく愉しみを味わっていきたいです。