300年前に書かれたシナリオと今の東欧、その差。
毎月第1水曜日にフランス全国各地で真っ昼間の静寂が突然破れる。数秒の間だけ、非現実的な音が鳴り響き、慣れてない者は皆必ず動きをとめて驚きを見せる。無理はない。あの特殊な音は本来戦争映画でしか聞きえぬはずのアラームだ。いわゆる空襲警報。
ポケモンを集めたり話題のドラマをちゃんと録画するよう心掛けたりして平和な時代を生きる我らにとっては「空襲警報」なんて所詮読みやすい四字熟語に過ぎないが、親の親の世代にとってはこの単語が同じ音を連想させるとはいえその響きが異なってるのだろう。戦争の恐ろしさを教科書でしか知らないことと身をもって体験したことはそれほど違うのだ。
徴兵制が廃止されてとっくに25年以上経とうとしてる今のフランスでは毎月数秒しか鳴らぬこの音が戦争の唯一の名残だと思ってたのに…。パリからそれほど離れてない同じヨーロッパの国であるウクライナでは今同じような音がリアルに鳴り響く。戦車に戦士。夥しい軍靴の音。撃破に叫び。まさかとニュースの解説者が皆唖然としている中、コロナ禍の次に今度は戦禍で世界が揺らぐ。
どこの誰かが先に何をしたのかというより最初に浮かんでくるのは「何故?」。あれほど技術が進み、知恵が広がっているというのに、なぜ人類は懲りないのだろうか?なぜまたやらかすのだろうか。18世紀の頭にノルマンディの小さな村で聖職者として勤められてたサン・ピエールは当時のルイ14世の先制政治を批判するつもりで、人生をかけて書き記した「永久平和の草案」はその後、有名なカントにもとんでもない影響を与えたといわれるが、300年後の今になってもこの永久平和は草案のままだと思うと再び「何故?」と誰かに問いかけたくなる。
『永久平和論』
著名 サン‐ピエール (著) 本田 裕志 (翻訳)
出版 近代社会思想コレクション
Rémi BUQUET
フリーランス翻訳家