フランス大使公邸で美食の余韻に浸ってきた
美食の余韻ってなんだって?何を隠そう、これがイベントの名前なんです。フランス大使館のイベント、「美食の余韻」。さすがとしか言いようがない、まだ味わってないのに余韻を前面に押し出すセンス! パンフレットによると、「口に含んだ瞬間の香りや味わいから、色彩豊かなフランスの風景が脳裏に広がり……」とのこと。私、アレルギー性鼻炎で、脳裏に風景が広がるのか自信が……でも口にたくさん含める自信はあります。参加させてください。ということで、人生で初めて、フランス大使の公邸に足を踏み入れたのでした。
入り口で警備員の人にきっちり身分証をチェックされ、手入れされたお庭の綺麗な邸宅にお邪魔します。まず、招待客の中に発見したのはあの、あまりにイケてる通訳として一世を風靡したダバディ。黄金のブルゾンがあれだけ似合うのはツタンカーメンかダバディか。これは、本物のオシャレなフランス人が来るようなイベントである。気が引き締まる思い。ひとしきり震えたあとは、たくさん並ぶ出展者のブース間をウロウロ。チョコレートや、スパイスケーキ、マドレーヌ……ノアゼット(ヘーゼルナッツ)のお菓子用ペーストもありました。方々で試食の大盤振る舞いで、1週間分の砂糖を1時間で摂取。低糖質ダイエットにケンカを売る姿勢です。フランス人は低糖質ダイエットできるのだろうか。
結婚式場のようなお部屋では、超有名フランス料理学校ル・コルドンブルーの先生によるデモンストレーションが行われ、マリーアントワネットが食べていそうな豪華なゆで卵を頂きました。先生は味見すると「う~ん、お酒が欲しいな」「人生は美味しいものを食べなきゃ意味ないよね!」など、ちょくちょくフレンチサービストークを混ぜながらサクサク調理。最後、「誰か質問は?」と言われたとき、日本人の悪い癖で誰も手を挙げず、気まずく思っていたら「そりゃそうだよね、俺完璧にやったから質問の余地ないよね!」と明るくまとめる気遣いも完璧な先生。ただの明るいおじさんではなかった。
肝心の料理は一言で言うとゆで卵マヨネーズなんですが、口に入れた瞬間、舌が混乱。これが余韻ってやつかもしれない。脳内に駆け巡る、「何の味なのかわからないけどめちゃくちゃ美味い」の感覚、これが余韻で良いん?(輝かしいオバサンギャグデビューです)。先生が目の前で作っていたのを見ていたのだから、何が入っているのかわかるはずなのに、先生の配合が絶妙すぎて、どの味もコラボ展開中。一人一人が主張してないから、ハッキリわからないのがスゴイ。頂いたレシピによると、卵、ビーツの汁、ディジョンマスタード、ピュアビーツケチャップ、ピーナッツオイルがマヨネーズになっているとのこと。主婦歴10年以上、一つもわからなかった。声を出して喜ぶとフランス料理に慣れてないことがバレてしまうと思って、声を押し殺して美味しいものを口にする喜びを噛みしめたのでした。
他にもお菓子に使える卵の代用パウダーや、フランス赤鶏を輸入して日本で育てた鶏肉の焼き鳥など、想像を超えた美食を堪能。新宿伊勢丹などで良く買っていたパティスリー、セバスチャンブイエさんご本人もいらっしゃいました。なんでも学芸大学におやつ専門店をオープンしたそうで、ご出身のリヨン名物、ピンクのかわいいプラリネを使った菓子パンの美味しいこと。本国の同じメニューよりも、日本人の舌に合わせてあまり甘すぎないようにして、サイズも小ぶりにしたそう。すっかり糖分過多だったから、セバスチャンの気遣い、助かる~。
夜になるとフランス大使の挨拶で乾杯。手にはシャンパングラス。ちょっと私、ここだけ切り取ったら社交界じゃない?って、シャンパングラスを持った手の写真でも撮って世界に公開しようとしたら袖のボタンが取れかかって大量糸くずが両腕から垂れているこのほつれ放題の袖でさっきからずっと名刺交換してたんかい。あ、でもきっとフランスの人は自由な感性だからオシャレな糸くずだって思ってくれていたかも~。
吉野亜衣子
ラジオ局を辞め、夫の留学についてパリへ。帰国後、日仏文化交流のための NOISETTEを設立。2022年で設立10周年。
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