19世紀、パリのサロン文化が息づく場所

今月のアート
Musée de la Vie Romantique
ロマン主義美術館
モンマルトルの南。シャプタル通り16番地。ここにひっそりとあるこの美術館。
「ヌーヴェル・アテーヌ」、かつてそう呼ばれていたこの場所は、19世紀にパリにあった地区で、オペラ座周辺からサン・ジョルジュ教会あたりまでのエリアを指します。当時この辺りは、まだ開発されておらず、ポルシュロンと呼ばれる農村地帯でしたが、19世紀初頭頃からパリは急速に人口が増加し、新しい居住区の拡大により開発が進み、ブルジョワ層、文化人が住み始めました。芸術・文化の中心であったギリシャのアテネになぞらえ、新しいアテネ、「ヌーヴェル・アテーヌ」と呼ばれるようになったのです。
ここに居を構えたのは、オランダの画家、アリ・シェフェール。近くには、ショパンや女流画家で
その恋人でもあったジョルジュ・サンドの住んでいたアパルトマン、スクワールドルレアンもありました。シェフェールは、ショパンの肖像画も描いています。当時ロマン主義の芸術家が親交を深めるサロンだった場所でもあり、隣人にはドラクロワ、文豪のヴィクトル・ユゴー、他に、リストと
その恋人マリー・ダグー伯爵夫人、ロッシーニ、ツルゲーネフ、などもこの邸宅に足を運んでいたそうです。
所蔵品は、彼自身の作品はもちろんのこと、特に親交のあったサンドの作品を多く展示してあります。また二月革命で亡命した国王ルイ・フィリップとも近しい間柄であったため、王家のコレクションも引き継ぎました。細い小道を抜けると現れる、まるで19世紀にタイムスリップしたかのような可愛いお屋敷。このサロンで彼らが表現し合い討論した光景が目に浮かぶようです。鑑賞後は、緑に囲まれた併設のティーサロンでお茶を飲みながら、当時に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
妹尾優子
仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「Lecture de l’aprèsmidi」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
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