レオナルド・ダ・ヴィンチの死
ドミニク・アングル / プティパレ美術館
今にも息をひきとりそうな老人と彼を愛おしそうに抱く男性。彼らは一体誰?そしてどういう関係なのでしょう?実は、この二人の出会いなくして、フランスにおけるルネッサンスも、ルーブル美術館さえもなかったかもしれないのです。彼らは、レオナルド・ダ・ヴィンチとフランス国王フランソワ1世。イタリアでの戦争で、イタリアルネサンスの煌めきを目の当たりにした若き王は、まだ芸術後進国だったフランスを芸術の力で治めようと決意します。
そして、ダ・ヴィンチの才能に惚れ込み、1516年フランスへ招聘し厚く庇護します。当時王は22歳、ダ・ヴィンチは64歳。王はダ・ヴィンチを父のように慕い、アンボワーズの自分の居城近くのクロリュセ城に住まわせ、ダ・ヴィンチは亡くなるまでの3年間をそこで過ごします。
二人の親密な関係を表現したこの絵は、およそ300年後1818年ドミニク・アングルという新古典主義の画家によって描かれました。彼は、並外れた視覚的記憶力を持っており、見たことのないこの光景を、評伝とかつてルーブル美術館で見た過去の画家たちが描いたフランソワ一世の肖像画の記憶を頼りに、描き出したと言われています。絵画における新古典主義とは、古代ギリシャの高潔な精神を規範とし、デッサンの正確さ、古典的厳格さを重視しました。しかし彼の場合、その精神を尊重しつつも、個人的な美意識が勝り、その結果、彼の描く人物画はどこか不自然に見えるのです。この絵のダ・ヴィンチの首も、よく見るとおかしなことになっていますね。アングルは、まさに自分の美学を貫き通した新古典主義の画家なのです。
妹尾優子
仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「 Lecture de l'après-midi 」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
https://note.com/tabichajikan/m/md750819c9bc7