師弟愛で繋ぐ芸術のバトン

今月のアート
国立西洋美術館
ル・コルビュジエ
無限成長美術館。“Musée à croissance illimitée”
美術館は、時代や需要に応じて「成長」するべき。収蔵作品が増えると、順路の延長線上に増築され、展示スペースを拡張できるという構想。国立西洋美術館もこれに基づき設計されました。提唱したのは、モダニズム建築の基盤を築いた20世紀を代表する建築家、ル・コルビュジエ。
彼の建築の特徴は、合理主義的なデザインと機能性。使いやすく、生活しやすい建築を追い求め、作り出したモデュロールという独自の寸法は、現代建築の基礎になっています。国立西洋美術館の建物内部や外壁などもモデュロールを用いて区切られています。
西洋美術館は、戦後フランスに接収されていた松方幸次郎のコレクション収蔵のために作られました。フランス政府は返還条件の一つとして、“作品を収蔵する美術館を建設する”ことを日本政府に要求します。そこで日本はその設計をコルビュジエに依頼。そして彼は、実際の日本における工事監理を、弟子の前川國男、坂倉準三、吉阪隆正に任せ、三人は師匠の理念を実現するために一致団結します。
当初コルビュジエは、総合的な文化施設として館内に劇場を作ろうとしましたが、敷地の制限などから実現に至りませんでした。しかし現在、美術館の正面には、日本を代表する劇場、東京文化会館があります。設計は前川國男。師匠の実現できなかった夢は弟子によって他の形で引き継がれました。ロマンですね。
そして国立西洋美術館は2016年、コルビュジエの建築群の一つとして、ユネスコ世界文化遺産に登録されました。
妹尾優子
仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「Lecture de l’aprèsmidi」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
連載中コラム
- note『 旅茶時間 』
- 仏文学朗読ラジオ『 Lecture de l’aprèsmidi 』