魅力は「引き算のスタイリング」

世界中に顧客を持つ
自称「謎」の東洋人スタイリスト

【今月のお客様】

丹下 佳子 さん

コロナ禍を機に雑誌や広告のスタイリストからパーソナルスタイリストへ転身した丹下佳子さん。個人のお客様の個性やライフスタイルに合ったスタイルを提案し、理想のワードローブ構築をサポートするお仕事へ。一本筋の通ったファッションへの美学を持ち、その人の持ち味を引き出す丹下さんのお仕事についてお話を伺いました。

Less is more wardrobe
少なくても豊かなワードローブ

 世界中からパリを訪れる富裕層の方が多いです。ダントツで多いのがアメリカ、他にはオーストラリア、香港、イギリス、スイスなど。パリ在住フランス人は人にいろいろ言われるのが嫌なのでほぼ来ません(笑)。この仕事は、アングロサクソンの国々では、「パーソナルショッパー」という名前で知られるポピュラーなサービスですが、フランスではこれから徐々に大衆化していくかなというところ。お客様の動機は様々で、自分のビジネスイメージを服に反映させたいとか、離婚したのでもっときれいになりたいとか、体型が特殊で服が見つからないとかね。30代、40代の節目や人生の転機を迎えている方が多いです。男女比は男性6、女性4くらい。

まず最初にお客様に質問票を送って、サイズや、服の好みを教えてもらうんです。「現在のスタイルをどう思いますか?」「どういう場面で着る服を探してますか?」などの質問に細かく答えてもらいます。それを見ると大体その人の人柄が分かるんですよね。
 その後のショッピング同行では、お客様が試着した時にいかに気分がアガるかということにフォーカスしています。例えば、プリント柄が好きな方には、柄を顔から離したほうが着こなしやすいですよ、とかそういうアドバイスをして、できるだけ着たい服を着てもらえるようにしますね。

 人によりますね。「この際一気にワードローブ揃えちゃえ!」と言って、3日間で10万ユーロ以上買い物された方もいましたし、数枚買っただけで満足という方もいましたよ。私がお客様にお伝えしているのは、「Less is more wardrobe」。服の量が多すぎると選ぶのが大変。質がよいものに、その価値に見合ったお金をかけて、あなた史上最高にアガる服に出逢ってください、手持ちの服よりもイマイチな服は買わないでくださいと。


パリに来てから一番幸せな日! と言われた喜び


 4時間です。といってもこれは洋服を試すだけの時間で、お店に行った時にはすでに服が選ばれている状態です。事前に私一人でお店に行って準備しておくんです。お店側も「必ず買うお客様だ」とわかっているので、一時間早く開けてとか、お店を貸し切りにして、というわがままも聞いてくれます。

このサービスは、コーチングで言えば、マインドセットの部分もあるんですね。自分の価値を理解して、それにふさわしい外見になるために、まずマインドを整えてあげる。「私は顔が大きい」という人がいたら「誰がそれを言ってるの? ただの思い込みじゃないですか?」とか。自分にはない部分にコンプレックスを感じてる方が多くて、例えば、髪の毛が減ってきたら代わりにヒゲを生やせばいいように、足りないところを補っていけばいいじゃない! と。

多くはないですね。日本人はセルフイメージを言語化できなかったり、人目が気になる。言われた通りにすることに慣れていて、自ら「分類」という囲いの中に入りたがる。フランス人は囲おうとしても囲いきれませんからね(笑)フランスでは日本みたいに同じ服を着ていると恥ずかしいとか一切ない。というか、他の人の服、誰も見てないですよね(笑)。日本の方も、骨格診断やパーソナルカラー診断だけにとどまらず、もっと自由に唯一無二のスタイルを追求してほしいなと思います。


 すごく響いたのは、アメリカからフランスに引っ越してきたばかりの女性の買い物同行をした時に「今日が私がパリに来てから一番幸せな一日だ」と言ってくださったことですかね。低身長を気にしていた男性に「あなたのおかげで人生が変わった」と言われた時も嬉しかったです。
 この仕事は、服選びを通して、お客様が人生の新たなステージに踏み出せるように背中を押してあげることなんですが、変わりたいけど変わるための心の準備ができてないお客様は大変です。ひと通り相手の意見を聞いてからプロの意見をはっきり伝える。このプロセスがなかなか難しく、お客様を甘やかしすぎてもダメ、かといって突き放しすぎてもダメ。日々学んでおります。【次号に続く】