シティーボーイ、カイユボットの見た19世紀のパリ

今月のアート

パリのバルコニー
Un balcon à Paris

ギュスターヴ・カイユボット

個人蔵

 色づいた大通りの樹々とパリの秋の空気をベランダ越しに愛でる。カイユボット、パリのバルコニー。彼については、本連載(第3回)で「床削り」の作品と共に紹介しました。画力はもとより、資金力も活かし同時代の印象派の作品を購入し経済的に支えただけでなく、その作品を後世へ残すために尽力した人でもあります。ただどんな絵でも良いわけではなく、ちゃんと見極めて購入していたそうです。現在オルセー美術館では、没後130年を記念しカイユボット展が開催され賑わっているようです*。
 筋金入りの御坊ちゃまで、父から受け継いだ資産は数億円で家賃収入もあったといわれています。何不自由なく育ち、多趣味でそれも本格的。絵画もその一つでした。モネやルノワールを尊敬し、彼らと同等に展示されるなんておこがましいという控えめな一面も。
 画家のピサロは息子へ宛てた手紙に、「誠実で寛大で、何よりも才能ある画家」と書いてあり、周りの友人たちは彼の絵画の才能も認めていました。カイユボットにとっては何よりもうれしいことだったでしょう。
 今回紹介するのは、弟と住んでいたオペラ座の裏手、グリュック通りの角にあるアパルトマンから見たオスマン通りを描いた作品。前景の装飾的な鉄の格子を通して都市の様子が伺えます。通りの空間と室内とを格子で分けている構図は、浮世絵にも見られ、インスピレーションを得たのではという見立てもあります。
 建物は現在、フランスのメガバンク、ソシエテジェネラルの本社の一部になっており、建物全体もパリの歴史的建造物として登録されています。彼らはこの建物の4階に住んでいたそうです。あのバルコニーから描いていたのかと思うと感慨深いですよね。

「C a i l l e b o t t e Painting men」2025年1月19日まで開催予定。

妹尾優子


仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「Lecture de l’aprèsmidi」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。