初めてのER

注射器? みたいなものから直接チューチュー薬を飲むアム。牧場の子ヤギのよう。
朝4時過ぎ、次女アムがお腹が痛いとギャーギャー言い出して「これはER行こう」と夫。パジャマ姿のアムにコートを着せて、「いくぞ!」と珍しくすごいリーダーシップで、「あいちゃんたちは保険証持って追いかけてきて!」と明け方のニューヨークの空の下へ消えていく夫たちを見送った私。着替えて保険証を持って、寝ぼけたお嬢を連れ極寒の街で「ぎゃーさむいー!」と叫びながら、2本隣の通りにある総合病院に徒歩5分程度で到着。近い。毎日救急車のサイレンがうるさいのを耐えたのはこの日のためだったのかーーーと嚙みしめながら緊急窓口に入ると、先についているはずの若旦那たちがいない。あれ? とウロウロしていると、なぜか遠くからゲロまみれの若旦那と車椅子に乗った次女アム登場。隣には「入り口を間違えた」と今にも倒れそうな夫。「佇まいが赤ちゃんだから抱えて連れていけると思ったが、体重はしっかり7歳だった」「抱えている間にゲロ吐いた」と、散々だったらしい。受付のおじさんも夫がへばりすぎていて「ペイシェントはどっち?」って聞いていた。車いすに乗っている子どもの方です!!
奥の個室へ案内され、2人くらいお医者さんが登場。アムのポニョポニョしたお腹を触って「盲腸じゃないね。てことは胃腸炎かな」「タイレノール(めちゃくちゃ売ってる鎮痛剤)とぺプトビスモル(めちゃくちゃ売ってる胃腸薬)みたいな薬を飲ませて、様子を見ましょう」両方とも家にある薬―――。当のアムは病院のトイレでウンコしたら少し楽になったそうで、薬を注射器みたいなものでチューチュー飲んですやすや寝。お医者さんがやって来て「起きたら、これを食べさせて。それで大丈夫なら帰っていいよ」と持ってきたのはジンジャーエールとクラッカー4袋―――。クラッカー多すぎだし、謎のサイズのジンジャーエール冷えすぎだし、なにより食欲湧かない。悲しい飲み屋か。フランス人が腹痛のときにコーラ飲むとか言う、民間療法か。入院食が思いやられるラインナップである。
これ食べたいっていう胃腸炎の子どもいるかな?

眠りから覚めたアムはすっかり元気に。もらったクラッカーを食べたくないということで、私が持ってきたバナナを食べていたアムをみたお医者さんが「えっ、クラッカーダメ?? ピーナツバター塗ってこようか?」違う違うそうじゃない。優しさ痛み入る。けど違う。
のこった心配は、お金である。アメリカの救急なんてとんでもないことが起きるのでは……? と怯えながら会計すると、保険が効いて清算はなし。ほっ。友達に聞いたところによると、保険によっては個室料だけ取られるとか、まず何十万円も払わされてそのあと払い戻しがあるとか、千差万別らしい。とりあえず、私の入っている保険は救急OKと言うことが分かった。これ、若旦那の出張中に緊急事態が起こるフラグだったらどうしよう。
パリを舞台にしたブロードウェイミュージカル、ムーランルージュ! 鑑賞。子どもらはハートの花吹雪を拾いまくり。二日後にER。

吉野亜衣子
ラジオ局を辞め、夫の留学についてパリへ。
帰国後、日仏文化交流のための NOISETTEを設立。2022年で設立10周年。
2024年春よりNY在住。
連載中のトモクンとポッドキャストやってます。
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