駅から美術館へ オルセーが語る近代の記憶

今月のアート
Musée d'Orsay
オルセー美術館
Paris
おおきな時計とドームの造りが特徴のオルセー美術館。セーヌ川を挟んで、ルーヴル美術館の南側、7区に位置します。美術館としての開業は1986年と比較的新しいのですが、建物自体の歴史は1900年まで遡ります。パリ万博に合わせて建てられた鉄道駅舎で、長距離列車のターミナルとして誕生しました。建築はトゥール出身のヴィクトール・ラルー。 オルセー駅は、当時としては革新的な鉄骨構造と石造外観で、ホテルも併設し、壮麗なその姿は、パリ万博のための「近代の玄関口」として象徴的な建物でした。
しかし、鉄道技術の革新により、列車そのものが長くなり、街中にあったオルセー駅は延伸することができず、1973年に駅舎としての役割を完全に終えました。老朽化が進み、壊される可能性もあったものの、時の大統領ヴァレリー・ジスカール・デスタンにより、1975年保存が正式決定され、駅舎を美術館に改装する計画が始まりました。 ではどのような美術館とするか、ジスカールはかねてより、印象派・ポスト印象派を国家的に顕彰すべき文化遺産と位置づけており、オルセー美術館は、それら19世紀後半の芸術を総合的に扱う「全体美術館」と構想しました。 その中核をなすのが、画家であり、印象派たちのパトロンであったカイユボットが国家に遺贈した印象派コレクションです。この中には、モネ・ルノワール・ドガなどの名作も含まれています。駅の保存、カイユボットのコレクション、印象派の顕彰、どれが欠けても今日のオルセー美術館の姿はなかったでしょう。
所蔵作品以外にも見どころはありますが、個人的におすすめなのは、レストラン。かつて駅舎の中央ホールにあったダイニングと天井のフレスコ画が当時の雰囲気で再現されていて、まるで19世紀にいるような気分で食事ができます。
妹尾優子
仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「Lecture de l’aprèsmidi」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
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