日常を優しく見つめるまなざし ノルウェーのある女性画家の視点

今月のアート
Thorvald Boeckの書斎
ハリエット・バッケル
オスロ国立美術館
天井まで届く本棚、アンティーク調の木製の家具でしつらえられた室内。窓から優しく降り注ぐ光。書棚の本はその光に照らされ豊かな色彩を放っています。窓の外を眺めながらここで一日中本を読んでいたい、そう思わせる一枚です。
作者は19世紀ノルウェーの女流画家、ハリエット・バッケル。1845年裕福な家庭に生まれ、幼い時から芸術に親しむ環境で育ちました。妹はリストにも師事したピアニスト。彼女の演奏活動に同行してヨーロッパ各国を旅し、その時に美術館を訪れ巨匠たちの作品に触れる機会も得ました。
当時ヨーロッパのアカデミーは男子のみだったため、ハリエットはミュンヘンに出て、女性のためのクラスや個人指導を受けることを決意します。29歳と画家としては遅めのスタートでした。その後パリに渡り10年間過ごします。印象派たちとの交流もあったそうで、彼らからインスピレーションを受けたことは言うには及ばないでしょう。パリのサロンにも認められ、Mention honorableという名誉な賞を受賞します。これはプロの画家としての道を歩む上で重要なステップでした。のちに彼女は言っています。「I think I servethe cause of women best by concentratinglike a man」(私は男性のように集中することで、女性のために最善を尽くしていると思います)。言葉よりも行動で道を切り開き、実力で勝負してきた彼女ならではの言葉です。
その彼女の頭の中に常にあったのは、室内と屋外の光の違いをどう描くか、ランプの光と自然光では色がどう見えるかという問題でした。豊かな色彩を持つ室内描写のこの絵は、そんな彼女の試行錯誤から生まれたのです。
妹尾優子
仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「Lecture de l’aprèsmidi」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
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