ベルエポックの新しい表現

今月のアート
Poème à Lou
「ルーへの手紙」より
ギョーム・アポリネール
広いツバの帽子を被った女性。
シンプルな絵だなと思いきや、よく見ると全て文字でできてるのがおわかりになるでしょうか。これは、カリグラムといって、対象となるテーマを文字を使って絵を描くように配置する手法のことです。視覚的なインパクトと、言葉の持つ想像力を組み合わせることで、一つの芸術作品になり、より効果的にそのテーマを表現することができるのです。
作者は、フランスの詩人であり小説家、文芸評論家でもあった、ギョーム・アポリネール。ベル・エポックとともに生きました。フランス語で良き時代。概ね、1890年から1914年、ミレニアムを挟んで第一次世界大戦開戦までと言われます。この時代は、華やかでアールヌーヴォーなど新しいアートの生まれた時代でもありました。カリグラムとう言葉は、そんな時代に生み出された彼のオリジナルで、«calligraphie»( 西欧風書道)と、イデオグラム «idéogramme»(象形文字や漢字などのような表意文字)を合わせた造語で、同名の作品集も発行しています。
Louという女性に捧げられたこのポエム。アポリネールが彼女に送った熱烈な手紙の裏に書かれていたそうです。二人の手紙のやりとりは220通に及び、これはその中の一つ。彼女の容姿を文字で形作っています。目を表現するときにはOei(l 目)、鼻はNez(鼻)、口はLa bouche(口)とフランス語で描画しています。
本来発表するためのものではなく、アポリネール自身、戦場という非日常の状況から、会いたくても会えない愛する人に宛てて書いたものなので、少し情熱的でロマンティックな内容になっています。
妹尾優子
仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「Lecture de l’aprèsmidi」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
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