パリ在住のパーソナルスタイリストに聞くプライベートの過ごしかた

【今月のお客様】

丹下 佳子 さん

前回は丹下さんのお仕事についてお聞きしました。世界中の老若男女がお客様となり、「Less is more wardrobe」を美学にして、その人のアガる一着を探す丹下さんですが、今号ではそのプライベートを深堀りしていきます。
(前号はこちらから→)

忙しすぎず、優先順位を
つける暮らし

 美大時代にスタイリストのアシスタントを始めて、卒業後、東京で一旦スタイリストとして独立したんですが、23歳の時、しばらく人生の夏休みをとるつも
りでパリに来たんです。その頃知り合ったファッション関係の人たちに、本場でスタイリストをやってみたら? と勧められ、CMや雑誌撮影の仕事をするようになりました。楽しかったんですが、経験を重ねるうちに、やっぱり俳優やモデルとの「虚構」の世界よりも、個人のお客様との「リアル」の世界で働きたいなと思い始め、今の仕事にシフトしました。

1人のお客様に時間がかかるので1 ヶ月に一桁の人数ですよ。それでも当日初めましての人に4時間で服を選ばなきゃいけないのは、すごく大変! ただ、私は忙しい生活は無理なんですよね。友達の数も絞って、お誘いがきても断ったり。家族との時間を大事にしたいし、休む時間も必要だし。その優先順位を考える時間って大切じゃないですか。

近所のマルシェでお買い物してお料理したり、お友達とアペロとか。マレ地区が好きで、ヴィンテージのブティックでの掘り出し物探しが昔からの趣味です。私、本当にショッピングが好きなんですよ。見るのも探すのも好き。メンズの服も好きですね。女性でメンズ物が好きな人ってあんまりいないので、お客様にも「女性の目から見てこの服はセクシーじゃないですね」とか言えたり。見かけは本当に大切ですが、どんなに着飾っても中身が薄ければそう見えるし、どんなに素晴らしい人でも、見かけがイマイチだとチャンスを逃す。内面と外見がうまくお互いを高め合えるように、それをいつも念頭において仕事してますね。


自分は自分でいいと
思えた時


 フランスに来て日常生活でいっぱい痛い目にあってます! 周りの友達もみんな苦労してます。恋愛でも「フランス人はわからん!」とか言ったりして。しかも、パリはいろんな国の人がいて宗教や文化の違い、育った環境の違いもある。そういう人たちと一緒に仕事したり、家族になって共同生活していくって本当に凄いことだと思います。フランス生まれの娘の教育にも手を焼いてますよ。我が子といえど考え方が全然違う!

いえいえ。フランス語を勉強し始めた頃、いったん英語が飛んじゃって話せなくなった時期がありました。その後、英語への苦手意識を克服するために、オンラインでトレーニングコーチをつけて勉強しました。お客様とのやりとりは、英語かフランス語でメールかチャットなんですが、一つ一つの文章がどういうニュアンスになるのかをよく考えて丁寧に返さなきゃいけないし、めちゃめちゃ苦労してます。

パリに住んで間もない頃は、あまりのカルチャーショックに日本に帰りたいと思ったことがありましたが、今となっては、自由が身についてきたというか。ある意味、フランス人の感情をさらけ出す感じが可愛らしく見えてきました。
 30年以上もここに住んで、もはや日本人でもなくフランス人でもない私って何者? って、ずっと悩んでましたが、50代になってようやく、私は私、謎の東洋人でいいのよ! 結局は自分は自分よ、というところまで来たかな。言葉だって、べつにネイティブじゃなくてもいいじゃん! 私流の話し方が彼らにはチャーミングに映るかもしれないと思えるようになったのもここ数年です。自分にないものから、あるものにフォーカスできるようになったのが、年の功というか、経験かなと思いますね。

ファッションだけではなくて、クリエイティブな仕事全体に向けてですが、「あなたと言えば○○」という唯一無二のものを確立するのが大事だと思います。イッセイミヤケならプリーツプリーツ、ユニクロならヒートテック。私は「Less is morewardrobe」ですね。


いろんな人から「パリに住んでファッションの仕事してるなんて素敵ですね」と言われて、そんなこと思ったことなかったけど、そうか、と。SNSで日本の方と交流し始めて、日本女性がすごく遠慮がちに生きているのを知り、自分らしさや心地よさを大切にするフランス風な生き方もあるよ、ってことを伝えてあげたいと思い始めて。将来、本の出版や、皆さんと交流できる日本縦断セミナーみたいなことをできたらいいなあと思っています。


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