国を超え時代を超えてオランジュリーで再発見するアンリ・ルソー

今月のアート
ジュニエ爺さんの荷車
アンリ・
ルソー
オランジュリー美術館
パリ中心部、チュイルリー庭園の南西に位置するオランジュリー美術館。「オランジュリー」とは本来、オレンジなどの柑橘類を冬の寒さから守るための温室を意味します。オレンジの木を冬越しさせるオランジュリーを所有できることは、王侯貴族のステータスでした。この建物も、1852年、ナポレオン三世の時代、チュイルリー庭園のオレンジの木々を保護する温室として建設されました。セーヌ川に面した南側には大きなガラス窓が設けられ、北側は厚い壁で覆われています。冬でも太陽光を最大限に取り込むための工夫でした。しかし、19世紀末になると温室としての役割は次第に薄れ、展示会場として利用されるようになります。そして1918年、モネが《睡蓮》連作を寄贈したことで、オランジュリーは美術館として新たな歴史を歩み始めました。そのため、オランジュリーと聞けば、多くの人が《睡蓮》を思い浮かべます。しかし実はこの美術館、アンリ・ルソーの重要なコレクションを所蔵する場所でもあります。
その立役者が画商ポール・ギヨームです。ギヨームは、ルソーをいち早く評価した画商であり、彼が蒐集したコレクションは現在、同美術館の核のひとつとなっています。ルソーといえば、遠近法にとらわれない空間表現や幻想的な植物世界が特徴的ですが、オランジュリーが所蔵する作品には、市民の日常や近代化するパリ近郊の風景を題材とした作品も含まれます。
『ジュニエ爺さんの荷車』はその代表例。ジュニエはルソーの友人で、毎朝パリ近郊の農家から野菜を仕入れ、販売していた行商人でした。ルソーは彼にいくらか借金をしていたといわれており、ジュニエが新しく馬を購入し、その馬を大変誇りに思っていたことから、ルソーがその姿を描いた一枚の絵を制作することになりました。一見すると素朴な風俗画に見えますが、そこにはルソーならではの独特な空間表現が見られます。
現在、オランジュリー美術館ではアメリカのバーンズ財団と共同で「アンリ・ルソー:画家の野望」展を開催中。バーンズも熱心なルソーのコレクターで、ギョームはバーンズがルソーの絵画を購入する際の仲介役を務めたそうです。パリとアメリカの二大コレクターによる作品群は必見の価値ありです。7月20日まで。
妹尾優子
仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「Lecture de l’aprèsmidi」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
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