権力は不思議なものだ

今月の一冊

『君主論』

マキアヴェリ 著/池田廉 訳

中公文庫

筋斗雲(きんとうん)に乗れるほど心が綺麗な方まで狂わせたり、逆にそいつを失わないよう友人や家族を犠牲にして不条理な行動に出る人も少なくない。まぁそうこないと大抵のハリウッド映画や戯曲もつまらないものになってしまう。だって大体悪役やライバルが権力や座をあっさり譲ったら、マジで話にはならない。

 選挙時に「政治家は全員ダメだ」とよく耳にするが、正直この時代では権力者も楽ではないとは思う。SNSやニュースのせいで毎日まるで密着されているような状況だし。ここに数十年前からのフランスの大統領歴を振り返れば権力者としてやっていくのがしんどいのかがわかるはず。

 サルコジ大統領がのち妻になるカーラ・ブルーニとディズニーランドで熱々デートの最中にパパラッチに追われ最終的に週刊誌に載ってしまったのはまだ可愛い。大物女優と共に夜中こっそり二人乗りでエリゼー宮殿を出るオランド大統領もまだ笑えるネタに入るといえば入る。一方、シラク大統領は専属の運転手曰くいつも「シャワータイム込みで5分」しか愛人の家に長居してなかったことで有名。遊び人の噂はともかく早漏疑惑もなかなか晴らさず他界した本人はやっぱり可哀想だけど、歳の差婚で話題になったマクロンの方がその中で一番可哀想かも。自分の妻が男性として生まれたのではないかと言われるからだ。

 自分だったらすぐやめると思うけど、きっとそれなりの報酬やメリットがあるからこそ権力を手放さずみんなは粘るだろう。粘りすぎて越えてはいけない線まで越えてしまうし。かつて聖人風に扱われていたアベ・ピエールやマハトマ・ガンジーも結局猥褻の疑惑をかけられてしまい、悪者になったので実際「上の者」に対してあまり期待せず、みんなはそれぞれの「現場」で所轄の青島みたいにできるだけまっすぐ生きれば一番いいかも。振り返ればきっと深津絵里のチャーミングな笑顔も見られると流石に約束できないけど。選挙時のダメな政治家以外な。

Rémi BUQUET


翻訳家・通訳者