自然と芸術の調和 館内に息づくロダンの美学

今月のアート
Musée Rodin ロダン美術館
77 Rue de Varenne, 75007 Paris
パリ7区、ヴァレンヌ通り周辺、アンヴァリッド界隈。貴族や官僚のために整備された地区で、庭園付きの館が多く残っています。そのため建物と建物の間にゆとりがあり、緑豊かで、歩道には木漏れ日が降り注ぎ、都会の中心にいることをしばし忘れてしまいます。
また、観光地や商業地から離れているため静かな印象です。そんな空間の中に佇むのが、ロダン美術館。ビロン邸と呼ばれるロカイユ様式のこの建物は、1732年に建築家ジャン・オベールによって建てられ、歴代の所有者には、貴族や軍人、ロシア大使館、教会関係者などが名を連ね、1905年以降は芸術家のアトリエとして利用されました。その中には、ロダン、マティス、コクトーなどがいました。特にロダンはこの館が気に入り、晩年はアトリエ兼居住としても使用しました。
1911年、国がこの敷地を購入する際、ロダンは、この邸宅を彼の作品を展示する美術館とすることを条件に、全ての作品をフランス政府に寄贈すると決意。その願いは受け入れられ、この場所を美術館とすることが正式に決まりました。1919年に完成しましたが、ロダンはその2年前に亡くなり完成を見ることはありませんでした。
しかし、生前からすでにこの庭園に自身の彫刻を展示しており、美術館はその展示方法を継承しています。当時、アーティストが生前に自ら美術館の場所を選び、作品を配置したという点で、非常に稀有な美術館です。庭園には、《考える人》をはじめとする彫刻、館内にはロダンの作品のほか、弟子であり愛人でもあったカミーユ・クローデルの作品も展示されています。建物もさることながら、このフランス式の庭園は、パリ中心部の美術館において最大級の規模を誇り、バラをはじめとする多種多様な植物に彩られ、芸術と自然が調和する、一年を通して楽しめる空間となっています。
ちなみに、雪で真っ白に染まった冬の庭園もまた、趣があって素敵でした。
妹尾優子
仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「Lecture de l’aprèsmidi」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
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