木漏れ日で伝える夏の空気 ルノワールの視線

今月のアート
『ラ・グルヌイエール』
オーギュスト・ルノ作者
スウェーデン国立美術館
以前、このコーナーで、モネの「ラ・グルヌイエール」について書いたことがあります。「ラ・グルヌイエール」とは、19世紀後半、第二帝政時代にパリ郊外の、セーヌ河畔に造られた水上レストランで、舞踏会場やボート乗り場も併設されており、レジャー施設のようなものでした。鉄道網が整備された当時のパリでは、週末になるとブルジョワジーたちは郊外へ出かけ余暇を楽しんでいました。
1869年の夏、モネとルノワールは、この「ラ・グルヌイエール」でまったく同じ日、同じ時間、隣に並んでキャンバスを広げました。彼らは当時まだ20代後半、屋外で刻々と変化する光をその場で描くことを試みていました。絵の主題は、レストランのすぐ脇に設けられた、一本の木が立つ円形の人工島「ル・カモンベール」。モネは、風景の中に人物を溶け込ませ、自然と光の反射、水面に焦点を置きました。一方ルノワールは、カモンベール島をグッとズームアップし、人々の表情や衣装、その場の雰囲気を柔らかな筆触でキラキラした光と共に捉えました。女性たちのおしゃべりする様子、楽しげな笑い声が聞こえてくるような、生き生きとした幸福感が溢れていて、後の作品、「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」を連想させます。また、ルノワール特有の木漏れ日の表現もここからすでに始まっているようです。どちらも、刻一刻と変わる光の瞬間を、素早い筆致でキャンバスに留めようとしました。しかし完成した作品にはそれぞれの個性があり、切り取った「世界」が驚くほど違います。
「ラ・グルヌイエール」という地名は「カエル(grenouille)」に由来します。当時この水浴場に集う若い女性たちを指す俗称としても「grenouilles」という言葉が使われていました。ルノワールは、彼女たちについて、とても気立ての良い人たちだったと語っていたそうです。こうした背景を知ると、ルノワールがカモンベール島に集う女性たちのドレスや表情を、生き生きと描いた理由にも頷けます。
妹尾優子
仏語教師の傍、仏文学朗読ラジオ「Lecture de l’aprèsmidi」の構成とナレーションを担当。美術史&日本史ラブ。日仏の文学からアートまで深堀りする日々。
連載中コラム
- note『 旅茶時間 』
- 仏文学朗読ラジオ『 Lecture de l’aprèsmidi 』


