愛着なき恋愛なし
この本は恋愛感情の誕生の解明だけではなく、その愛が持続可能になるメカニズムについて探っている。フランス語では一目惚れのことを「avoir le coup de foudre(稲妻に打たれる)」と、恋に落ちる瞬間の突然と偶然を表現する。恋に落ちる時、稲妻のような凄まじい打撃を受け、相手が瞬間的に自分の世界の軸となるのだ。その強烈な気持ちの原因は脳内で放出されるホルモン、オキシトシンにある。しかし、信頼・共感・寛大さ・性に関して重要な役割を果たすこのホルモン放出が収まる時、愛の維持に最も重要なのは「アタッチメント(愛着)」だ。これがバトンタッチで任務に入る。
ここまでは誰でも気づくことだが、ここからは神経精神医学者の著者シリュルニクがアタッチメント理論と愛の関係を徹底的に探っていく。シリュルニクは心理学における「レジリエンス(精神的回復力)」の概念を形成した学者として知られている。戦時のトラウマを克服した経験をはじめ、精神科医としての長い実践活動に基づいた膨大なエピソードを通して、人々と愛を多角的に、そして興味深く語っている。
恋に落ちることは、人と人が結びつく絆が深く関係する。母と幼児が結んだ絆から、その後子どもが親戚や周囲の人達と作った関係は、性に関わるホルモン放出が活発になる青春期からの恋愛の可能性に影響する。平和な環境の中で作った「安全な愛着」のなかにいる人は、紛争に塗れた環境における「不安な愛着」に不幸をもたらされた人より、恋をしやすい。不安を抱える者は、失恋の経験を避けるために恋愛関係を諦める傾向があるという。
著者が問いかけるのは、社会的・気候的な不安を抱える新世代がどうやって恋愛関係を作るのか? 時代によって恋愛関係が何度も変わってきたことを考えれば、我が子達も、きっと「未来の愛の形」を作れるだろう。

今月の一冊
人が愛するときに心に何が起きるのか
ボリス・シリュルニク 作
/ダコスタ吉村花子 訳
原書房
ジャンマリー・プルドン
福岡在住のフランス人。福岡で仏語教室やフランスに関わるイベント企画を通してフランス文化普及に貢献する。Nautilus主宰。
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